合縁奇縁とは良く言ったものだと思う。 俺と赤司の出会いはWCの開会式の前のことで、殆ど一方的で最悪なものだった。赤司にとって俺は限りなくただのモブに近い邪魔なモブであり、異物であり、排斥すべき事物にすぎなかった。そして俺にとって赤司は鋏を振り回す危険人物で、仲間と一丸になって倒すべき敵で、まあ言ってしまえば魔王だった。 それがどうしてこうなったんだろうとよく思う。誠凛高校の控え選手Fにすぎなかった俺は赤司に何故か気に入られ、何故か名前を覚えられ、何故か部活関係なく会い、何故か一緒に遊び、何故かいい感じの雰囲気になって、何故かキスされ、何故か付き合うことになっていた。おかしい。よく思い出せ降旗光樹、相手はあの赤司だ。魔王で暫く夢に見るほど怯えていた相手だ。あと何より男なんだぞ。それがいったいどうしたら恋愛の意味で「御付き合い」することになっているんだ。 まあでも、やっぱり全てに勝つ赤司は全て正しいのかも知れず、気がつけば俺はうっかりしっかり赤司のことをあいしてしまっていたので、現状に不満はなかったりする。 そうして赤司と付き合い始めて少し時間が経ったが、未だ赤司のことはわからないことが多い。きっとそもそもの理由は俺と赤司のIQの違いとかで、わからないというより、わかってあげられない、のかもしれない。 だから今日、俺は畳のいい匂いがする、馬鹿みたいに(失礼、)広い赤司の部屋で、ちょっと困ってしまっていた。 「赤司…?」 「なんだい」 「えーっと」 俺は逡巡して、口を開く。 「どうして壁に向かって正座してんの?」 そう、現在赤司は綺麗に整頓された広い部屋の隅っこで、壁に向かってそれはそれは美しく正座していたのだ。ピンとのびた背中は、なんだかつついて弄ってやりたくなるのだけれど、万が一逆鱗に触れたりしたらと思うと怖いので我慢する。一体何があったんだろう。俺は赤司の家に至るまでのあれこれを思い返した。 青葉繁げるゴールデンウィークのこと、俺は京都にやってきていた。勿論赤司に会うためだ。折角京都に来たんだからと、赤司は外で京都の名所を案内してくれた。思い返せば、このときから赤司の様子はおかしかった気がする。冷静沈着な赤司にしてはそわそわしていたし、いつもよりちょっと血色が良かったし、ああ、テンションも高かった。じゃなかったらあの赤司が稲荷で狐のお守り持って「こんっ」なんてふざけたりしない。笑っちゃったけどすげーびっくりしたもん。 で、一日満喫して、宿泊するためもあり赤司の実家にお邪魔することになったのだけれど…赤司はこの状態になってしまったというわけだ。 「別に何もない。気にするな」 赤司は態度を変えようとしない。俺は少しだけ呆れてしまった。 「無理言うなよ。二人しかいないんだぞ」 平静を装って強がった発言をするけれど無理がある。そう思って思わず反論したのだが何故か赤司の肩が跳ねた。わかりやすい反応を受け、俺はますます訳が分からず首を傾げる。俺、今なんて言ったっけ。えーと…反応したのは…「二人しかいないんだぞ」? 「…!?」 もしかして、と俺はとても恥ずかしい結論に至った。 「え、ええと赤司?」 「なんだい」 「………照れてるの?」 「…」 沈黙は答えなのだろう。っていうか過去に人の唇奪っておきながらなんて純な人なんだ。でもこうして赤司が照れてる、意識してるってことは…もしかしてもしかすると、今日一線を越えるの、だろうか。うわあああ。高校生らしい煩悩に塗れた俺の脳ではあらぬ妄想が開始された。期待に心拍数が上がり顔が熱くなる。赤司が向こうを向いていてくれてよかった、赤司の目は誤魔化すことが出来ないから。でも、今のままじゃ本当に何もできない。俺の頭の悪い妄想が今は赤司に伝わらないように、俺にも壁に向かった赤司の心が、どこに向かっているのかわかりゃしないのだ。 さり、と畳が足下で音をたてる。俺はそろそろと赤司に近づき、有らん限りの勇気を出して、その綺麗な背中を後ろから抱き締めた。あ、ちょっと汗ばんでいる。彼のしっかりとした体つきは確かに男性のものだけど、赤司というだけで劣情を煽られる。 「ね、赤司、何して欲しいの?ちゃんと、言ってよ」 自分でもびっくりするほど甘ったるい口調で、俺は言った。 「………馬鹿かキミは」 対して赤司はふぅとため息を吐き出す。えっ呆れられた?判断を間違ったかと浮かれきった心がぺしゃんこに潰されかける。しかし、続く赤司の言葉で事なきを得ることとなった。 「もう、叶えてもらった」 僅かに見える赤司の口元が柔らかく緩んでいた。安堵もしたのだけど、それだけじゃなくて、胸が一杯になる。やっぱりびっくりするほど俺は赤司に惚れてしまっているんだ。赤司を腕の中に閉じ込めたまま、俺は詳しく教えて、とねだった。俺頭悪いからさ、というと赤司は苦笑する。 「――ずっと、抱き締めて欲しかった。外にいる時は、手をつなぎたかった。光樹ともっと触れ合いたかった、そんなことを考えている自分が恥ずかしいと思った……これで十分かい?」 「………十分デス……」 赤司は僅かに頬を染めていたが、大して表情を変えぬまま答えた。一方で赤司の素直な告白に俺はあえなく撃沈した。赤司の肩に頭を押し付ける。この人、そんなこと考えてたんだ。一緒にいるだけで楽しいとか俺が満足している間に、なんて嬉しいことを考えてくれていたんだろう。と、同時にさっき一線を越えるとかよからぬことを考えてしまった自分を百回くらい殺したくなった。 しかしそれほど後悔しても俺の煩悩は消えなかったようで、芽生えてしまった貪欲な思いが俺を動かしていた。 「赤司…こっち向いて?」 赤司は意外と俺に甘い。俺がそう耳元でもう一度ねだると、ゆっくりと振り向いてくれた。俺はすかさず赤司の唇を奪った。赤司はきょとんと、俺を見ている。しかしすぐに状況を飲み込んで、赤司の方からお返しのように、可愛らしいキスをしてくれた。そして続けてキスをする、今度は唇を強く、押し付けるように。 「ねぇ、光樹」 赤司は俺の腕に手を掛けて、上目遣いに俺を見た。宝石みたいな両目は奪えとばかりに蠱惑的だ。純粋な筈の赤司は妖艶に微笑む。 「二人っきりだね」 やっぱり、俺は彼がわからない。その理由がIQの差なのか今までの生き方の違いか、はたまたそれ以外の何かなのかすらわからなくなった。ただ、俺には服から覗く彼の白い肌が、いやらしく見え始めていた。 不可解な白磁 20131003 あとがき 100000hitフリリク部屋 |