彼が苦手な理由 | ナノ


※元ネタは昔レディコミに載ってた短編での言い回しだったんですが、高尾に言わせたかったので。





緑間真太郎は同じクラスであり、同じ部活でスタメンの座を獲得している高尾和成がものすごく苦手だ。けらけらと軽薄そうな笑い声を聞くと、楽しそうだなと思うよりも先に苛々したし、自分の思うまま、静かに日々を送ろうとしている緑間に何かにつけ積極的に構いにくるのが鬱陶しくて堪らなかった。今日のラッキーアイテム何?また爪の手入れしてるの?おしるこホント好きだな。おそらくは放っておくと孤立する緑間を思ってのことだったのだろうけれど、緑間にとってはとんだお節介で余計なことで、有難迷惑だった。

理由は、自分は瑣末な人間関係のあれこれに影響されるような人間ではないと思っていたからだ。

誰にでもへらへらと笑い、良好な関係を構築する高尾の価値観と、わかりやすく自己中心的に生きる緑間の価値観ははっきり言ってかみ合うことを望む方が難しい。ふとしたことでその考えは緑間の口から容易く表出した。言葉を扱うのがへたくそな緑間は、思ったままを高尾に伝える。お前の生き方はわからない、周囲の空気に同調して、他人に奉仕することで自分の立ち位置を作るその生き方は嫌いだ。そんなようなことを言えば高尾は、泣きも怒りもせずやっぱりげらげら笑った。自主練の後の自分たち以外誰もいない部室に、笑い声はわんわん響いて、僅かにロッカーを震わせる。緑間は眉間にしわを寄せた。自分の言葉はこの男に全く響いていないのではないかと。軽薄に躱されて、ただ自分が苛立ち終わるだけなのではないか、と。

しかし高尾は、緑間に答えた。

「真ちゃん、俺は周りに合わせてるんじゃないよ」

続く言葉に、緑間は目を見開いた。

「俺は、周りに合わせて『やって』んの」 

初めての高尾の暴言だった。いつものヒト好きのする笑顔ではない。口の端を軽く上げて、瞳の奥は冷たい。皮肉そうな、意地悪そうな笑顔だ。高尾が見せたのは緑間が知らない種類の"強さ"だった。緑間が呆然としていると、高尾はきゅっと目を細めて、今度は他意のない笑顔を浮かべた。早く着替えて帰ろうぜ、真ちゃん。高尾に言われて、緑間はつい頷いて、素直にシャツのボタンを留め始めた。春の夜はまだ肌寒く、学ランの前もしっかりと留めてから荷物を抱える。部室を出て並んで歩き始めると、高尾はまたなんでもないことをおもしろおかしく話し始めていた。

――合わせてやってる、か。

相槌を打ちながら緑間は考える。友人のことをそんな風に思う高尾を、緑間は最低だとか汚いだとかとは不思議と思わなかった。認識が変われば、高尾への感情は多少なりとも形を変える。

緑間真太郎は同じクラスで、同じ部活でスタメンの座を獲得している高尾和成がものすごく苦手、『だった』。


彼が苦手な理由



(20130818)

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