because they love | ナノ


※火黒と緑高緑



「sex?」

やたら良い発音で火神がきょとんと聞き返してくるので、高尾は頷きつつも誤解がないように言葉を付け足した。

「おう、でも性別じゃない方のセックス」
「…そんくらいわかるよ」

話題が健全な男子高生じみていることに遅ればせながら気がついた火神は、言い訳するような調子だ。頬も段々赤らんできている。ついでに言えば現在地は老若男女入り乱れるマジバの片隅だったりするので、高尾が軽くそんな話題を振ってくるあたりに恥ずかしさと不思議さを感じていた。そんな火神の思考なんて読めているのか、高尾は周りのことなんて気にすんなよ、誰も聞いてないからと唇を尖らせる。

「いや、そうかもしんないけどよ…ええー」

珍しく呼び出されたなあと思ったら、なんだかとんでもないことを訊かれている。

「ほら、俺、真ちゃんと付き合ってるじゃん」
「あー、そうだな?」
「で、火神は黒子とそういう仲だろ?」
「なんで知ってんだ?!」
「わからいでか。だからその…色々訊きたくて。その…まだ俺らシたことないんだけどさ…どんな感じとか誘い方とか…ううう」

やや前のめりになって話していた高尾はそこで我に返ったらしく、しゅるしゅるしゅる…と小さくなって背もたれに体を預けた。よく見ると先ほどの火神ほどではないが頬も赤みが差していて、こんな赤裸々な話、一般人ならば誰もが恥じらうとは思う。けれど、火神は高尾でもこんな、もろそうな一面を持っているんだなあと妙に納得してしまった。高尾がそんな弱くて曖昧な部分を晒しているのだから、基本的に人が好い火神は高尾の期待に応えてやりたかった。

のだが。

「高尾…その、わりいけど……俺も黒子とシたことないわ」
「……………………………………………………は?」

高尾は大きなつり目をこれでもかというほど見開いて、驚愕を示した。そのままぽろんと目玉が転がり落ちてしまうんじゃないかと火神はわりと本気で心配した。高尾は段々と、一度停止した思考速度をあげていき――周囲の迷惑にならないギリギリの声でしかし絶叫した。

「っはあああああああああ?!」
「うるさっ」
「はっ…はぁ?!なんで?!!」
「なんでって…」

火神は咄嗟に耳を覆った手をそのままに、ぽそぽそと自分たちの性事情を暴露する。

「部活キツくてんなのやる暇ねぇし…」
「セックスは別腹だろ?!」
「高尾…肉食系だな…」
「いやいやいやそっちが草食すぎるだろ?!」
「あー、でもキスはするぞ!」
「ドヤ顔するなよ普通だ馬鹿たれ」

馬鹿、と言われたのに火神はむっとしたけれど、普段の高尾の言動と比較して察するに、現在彼は相当テンパっているのだろうという結論がでたので、寛大な心で許してやることにした。高尾ははあああ、とため息をついてテーブルに突っ伏した。そのまま動かない。火神はなんだか高尾がかわいそうになって来たので、高尾の頭の上にチーズバーガーをひとつ乗っけてプレゼントしてやった。

「まじ…信じらんねえ…」

高尾はぐったりと机に伏したままぼそぼそと呟く。声がしっかり聞こえていた火神はついでに理由も教えてやることにした。

「多分俺らが特殊…だとは思うぜ。あ、でもアメリカだとゲイカップルって日本よりは遥かに多くいるんだけどさ…まあ日本よりオープンだからだけど…体の関係なしで付き合う人も結構いるっぽいぜ」
「…性欲どうなってんの…」

火神はもうひとつ、高尾の頭にチーズバーガーを乗っけた。高尾が顔をあげないうちに、と自分たちの話をする。高尾が顔をあげていたら、きっと恥ずかしくて話せないだろう話だ。

「いや、俺も性欲普通にある方だとは思うけどさ…なんか、黒子相手だと、側にいたいし、優しくしたいし、愛したいとは思うんだけど…一緒にいるだけでそれが全部満たされちゃってヤリたいとか思わねえんだよなー」

高尾は自分の身を守るかのように体を縮める。頭の上に乗っけられたチーズバーガーがゆらゆらと揺れた。一緒にいるだけで、他にはもう何もいらない、か。高尾はじわりと自分の目頭が熱くなるを感じた。

「…なんだよ…なんか俺ばっかりがヤリたいみたいじゃんか…」

お前は汚いと、火神と黒子、それから緑間にも言われているような気分になる。自分の恋人に、想像とはいえそんなことを言われるのは精神的にかなりキツい。高尾の声の震えに火神は気が付いたが、かといってよい言葉をかけられるほど自分は器用ではなかったので触れないでおくことにした。その上で自分の思ったことをそのまま言う。

「違うのか?」
「ちがわねーよちくしょおおお」

正直火神にはデリカシーがないと文句を言いたかった。角度を変えた高尾の頭からころんころんとチーズバーガーが転がって、火神の手元に帰って来た。火神はそのチーズバーガーの片方を高尾の手元に置き直して、もうひとつはとりあえず自分のバーガーの山に戻した。

「だからさ、高尾の恋愛事情は俺らとは全然違うんだよ。俺らはいろんな選択肢の中から今のところ何もしないで側にいるってことを選んだんだから。なんかCMでやってたけど、みんなちがってみんないいんだろ?」
「セックスの話でその言葉が使われるとは思わなかった」

高尾はぶは、と久しぶりに笑って顔をあげた。目がほんのり赤くなっていたけれど、火神はやっぱり何も言わなかった。

「緑間相手に誘うのは相当キツそうだけど、でもお前ら付き合ってて、キスも当然みたいにしてるんだろ?だったら俺、大半のことは平気だと思うぜ。」
「…ありがと」
「チーズバーガー、食えば?」
「うん」
「…なんかあったらまた話きいてやるよ」
「うん」

火神はやっぱり完全には復活していない高尾の頭をあやすように撫でてやった。

それから一週間もたたずに、火神は緑間から同様の相談を持ちかけられたりするのだった。中学からの付き合いの黒子相手にはどうしてか恥じらいが勝って相談を持ちかけられなかったらしい。真っ赤になりながらも人事を尽くして相談してくる緑間を見て、火神はこいつらならやっぱり大丈夫、とこっそり笑った。


Because they love one another,



(20130818)

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