10 緑高緑 落雁の弾丸で殺して | ナノ


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緑間真太郎という男は、正直聖人と言っても過言ではないと俺は思っている。自分の信じた事象に対して最高の敬意と信仰をもって接し、生活を送る。その姿は時に間が抜けているが敬虔なものであり、俺は時々彼が自分と同じ慾を持った人間だと思えなかった。だから、そんな彼に劣情を抱いてしまった時は本気で悩んだ。まず同性。俺はホモだったのかと打ちのめされた。次に緑間の人間性。もっとマシな人間、その辺にごろごろ転がってるだろ、と本気で自分につっこんだ。

今となっては昔の話、結局自分の心に嘘はつけずアプローチしまくり、俺は緑間とめでたく付き合うことになった。今でも信じられない。そして付き合うことになって俺はある悩みを持つ。


ヤりたい。


まぁ、思春期男子にとっては当然な感情である。だがしかし、俺の彼氏様はあろうことか緑間真太郎様なのだ。不能とかそういうんじゃなくて気になる…この人俺で勃つのかな。一応明言しておくが、俺は普通に勃つ。片想いの頃からお世話になっていました真ちゃん本当にごめんなさい。

ヤりたいざかりの俺はここでも全力でアプローチした。初めての時は、とにかく、奉仕がしたかった。自分の情欲に付き合ってくれる緑間が愛しかったのだ。真ちゃん相手だったらフェラだって全く抵抗がなかった。口の中のものが大きさを増して固くなるのを感じて、背筋がぞくぞくしたのを覚えている。真ちゃん、俺の口で気持ちよくなってるんだ。真っ赤になって口の中で喘ぎ声を殺す真ちゃんはそれだけでこっちがイきそうな位可愛らしかった。そして聖人を汚すような背徳感が、一層緑間との触れ合いを興奮させた。真ちゃんに奉仕していて全く触れていないのにも関わらず、俺の性器は完全に勃起していたのだ。

その後も、緑間とのセックスは俺が奉仕することに徹底していた。だってもう本当発情した犬みたいな俺としてくれるだけでありがたかったというか。うーん、いけないな、下僕根性が染み付いている。まあ、真ちゃんと俺の性事情の暴露はひとまずこのくらいにしておこうか。



で、現在。

「ん…ッ、あっぁ、ちょ…やばいってそこ…!!」

俺はだらしなく喘いでいた。助けて。高尾くんの高尾くんが真ちゃんの舌でなぶられてる。

ベッドの上で崩れ落ちそうな体を両肘で必死に支えながら思い返す。正直何がどうしてこうなった、という具合だ。付き合っているのだから真ちゃんが俺のことを好いてくれてるとは思う。今日だって真ちゃんの買い物に付き合った後、もてなすからと俺の家に連れて来た。この流れは「いつも通り」になったことだ。しかし部屋に入るなりいきなり緑間から誘ってきておっぱじめるというのは緑間が3Pをどフリーで外すレベルであり得ないことだ。しかも聞いてくれるか、今日、俺のズボンのファスナー、緑間が左手で下ろしたんだぜ。やばい思い出したら勃起しすぎてちんこ痛くなってきた。

緑間の舌が俺の性器の裏側の根元から亀頭にかけて舐り上げる。敏感で一番快楽を得やすい部分を刺激されて内股がピクピクと痙攣した。緑間は一度俺の性器から顔を放すと、俺を見上げて唇を唾液やら俺の体液やらでてらてら光らせながら言う。

「高尾、気持ちいいか?」

ねぇこの人ツン部分どこに落っことして来たの?!叫びそうになったが堪えて、羞恥に悶えそうになりながら気持ちいいと伝えた。つーか気持ちよくなかったらこんなへろへろになってないだろが。それでも言葉で、聞きたかったのだろう。緑間は俺の答えに満足そうな表情を見せる。そして舌の先を尖らせて、またぬるぬると俺の性器を弄び始めた。

「っ…てか、真ちゃん…逆にやけに上手いんだけど。初めて、ですよね?」
「ああ、お前の動作から学んで人事を尽くしたからな。舐め方とか、しゃぶりk」
「ああああああ!やめろよセックスん時にそういうこと考えんの!余裕ありすぎて奉仕してたこっちは泣けるわ!」
「…」

俺は耐えきれずに言葉を遮り喚く。それがどうやら緑間の機嫌を僅かに損ねたらしい。真ちゃんはむっとした表情になって、今度は俺の性器をぱくん、と銜えてしまった。

「――!!!」

俺はもう驚きのあまりに声すらでない。その上、じゅぶじゅぶと卑猥な音を立てながら緑間はゆっくりと頭を前後に動かし始めた。先走りの苦さに甘党の緑間は少し顔をしかめて、でも俺の陰茎から口を放そうとしない。俺はあまりの快楽に呼吸すらも震えてしまっていた。

「ん、う、ンんっ、みどりまっ、まって!」

カタカタと足が震える。こみ上げてくる射精感が、直にやってくる絶頂を知らせて、俺は緑間の肩に必死に手を伸ばした。服を引っ掴んで離そうとするものの、体の力が抜け切ってしまって腕に力が入らない。

「しんちゃ、あ、あ、やぁ、でちゃ うから!はなせって、!」

なんなんだよもう、腕まで震えてる。真ちゃんは意地でも離れないつもりらしく、俺の陰茎を喉の奥まで誘い込んだ。ぬるぬるしたそこが先に触れる感覚は暴力的な快楽を生じさせた。そして。

「…――んッ、ああ、ぁ…!」

ぶる、と体が勝手に震える。緑間が耐えるようにきゅっと目を閉じた。射精直後の熱に浮かされてぼうっとしている脳みそでかろうじて認識する。結局俺は緑間の口の中に欲を吐き出してしまった。息を整えていると段々意識がはっきりとしてきて、サァ、と血の気が引いた。緑間が俺の言葉を聞いてくれなかったのが原因とはいえ、自分の体液を恋人の口の中に放ってしまったことがショックだった。早く吐き出して、と俺は緑間の口の前に手を持って行った…が、ここで想定外の大事件が起こる。

ごくん、と緑間ののど仏が上下した。それはもう滑らかな動きで…要するに口の中身を嚥下したということに他ならない訳である。

俺は絶句した。後、絶叫した。

「ッぎゃああああああ!?真ちゃん何やってるの?なにやってんの!?ねぇほんとなにやってんだよおおおおお!!」
「っふ、…? 普通飲むものじゃないのか?」

口の端から垂れた精液を手の甲で拭い、舐めながら、天然丸出しで真ちゃんがそう言う。俺は目を剥いた。

「違う!違う違う違う違うちがーう!!それ俺のこと言ってるんだよね?違うから!
 普段のアレは俺が好きでやってるだけで――」
「ふむ」

緑間は眼鏡の奥の目を細めた。翡翠の色をした双眸が先ほどからは一転し意地悪そうな色を宿している。あ、これ俺なんか凄いヤバいこと言った気がする。完全に失言だ。明言していい話ではなかった。思った時には遅かった。緑間は俺から視線を外して少し考えた後、にや、と好戦的な笑みを浮かべた。

「じゃあ、お前は好き好んで普通ならまずくてとても飲み込めないような液体を飲んでいたのか。俺の精液、ただそれだけの理由で」

否定することなんてできない。俺が硬直していると、真ちゃんの唇が俺の耳元にぴたりと寄せられた。

「変態」

耳に押し込まれたその声があまりにエロくて、ぞくぞくと何かが背筋を這い上がる。まだだるい腰が勝手にびくりと震えて、俺は自分の顔全体が熱で焼き焦げるんじゃないかと本気で心配になった。

「まだ足りないか」

俺の体が反応したことに気がついたんだろう。緑間の手が、また俺の性器にのばされる。触れられたそこは懲りずにまた硬度を取り戻しつつあった。触れられる僅かな刺激。

「ッ、真ちゃんこそ…どうすんのさ、それ」

喩えエース様・恋人様であっても、やられっぱなしは癪に障る。緑間の性器もまた布を押し上げ、窮屈そうにテントを作っていた。お返しのように俺が指先で触れると、ぴくりと反応する。布の奥に固さを感じた。

「…しーんちゃん、いっしょ、気持ちよくなろ…?」

言いながら、チャックに手をかけて、俺は緑間の顔を覗き込む。緑間は情欲に浮かされた、やや憂いを含んだ眼差しで俺を見つめ返し、口を開いた。

「…高尾」
「なに?」
「お前は、いつになったら俺とセックスするのだよ?」
「……………………………………………
………………………………………………
……………………。
………………………………………………
………………………………………は?」

今まさにヤっているこれはなんですか緑間真太郎さん。

「え…え?」
「セックス、というと語弊があるな。所謂アナルセックスというやつなのだよ」
「あ…あー、うん…ええー…」

おお、ちょっぴり萎えた。まあいいか、正直しんどかったし…。

…真ちゃんが言っていることの意味はわかる。実は俺たちは今まで散々キスしたり性器を触り合ったりしてきたけれども、挿入を含めた最後までのセックスというのはやったことがなかったのだ。ペッティングどまり、と言えばわかりやすいだろうか。緑間は今までずっと黙っていた訳だが、実はそのことを不満に思っていたらしい。

もっと深くつながりたい。緑間が求めているのは、そういうことだった。俺はというと、緑間が求めてくれることが猛烈に嬉しかったし、緑間が望むのならば拒む理由はひとつもない。唯一気がかりなことと言えばどっちが女役か男役か…ということくらいだ。

「しんちゃ、」
「どちらがタチかネコかは、高尾が決めていいのだよ。俺は、お前とするならなんでもいい」
「〜〜ッ!」

いつも喧しいと怒られる俺が声すら出せなかった。緑間の普段のわがままっぷりからは想像がつかない発言、俺は頬が熱くなるのを感じた。なんだそれ、ずるい。

「ひ…ひきょうものぉぉ」

思わずうなると、緑間は不本意そうに眉根を寄せた。

「どうして謗られなければならないのだよ」
「おっまえ……かっこいいんだよ!!なんだよもう、色々気にしていた俺が馬鹿みたいじゃん……!」

例えば緑間は欲情するのかとか。例えば緑間は俺に欲情するのかとか。例えば、緑間が男である俺に欲情してくれるのか、とか。探り探りでやってきた現在地。今まで大好きな人の隣にいて、ずっと不安で仕方なかったこと。今でさえ思考はぐるぐると渦を巻く。そんな俺に、付き合いが長くなって来た緑間も少しは俺の考えていることがわかるのだろう。彼は小さく、ため息をついた。

ため息に無意識に怯えると、緑間は俺の唇にちゅ、と軽く口づけを落とした。

「たかお。………高尾が思っている以上に、俺は高尾を、想っているのだよ」

聞き分けのない子供を諭すような優しさは、口の中が痛くなるほど甘い砂糖菓子のようだ。ああ、もう、たまらない。甘くて甘くて、頭が回らねーよ。これだからギャップというものは恐ろしい。俺の唇はこれからのことを話すよりも先に、だいすき、と勝手に動いていた。


落雁の弾丸で殺して



20130803

あとがき

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