忘れ勝ち 07 | ナノ



07


見慣れた道をへろへろと歩き下校する。鼻先と頬が寒風をもろに受け痛くなるほどに冷たかった。まだまだ冬は続くなぁと思う。福田たちとは随分前に別れてじきに家だというのに歩みがのろ過ぎて一向に家へ着かない。WC前に比べたら遥かに軽い運動量であったはずなのに、俺の体はずっしりと重かった。精神的な疲労って体にも響くみたいだ。

結局、赤司がやらかした後俺はきっちりと現状の報告をさせられた。勿論先輩方はトンデモな状況に仰天していたが、やはり最終的には「まぁ、赤司だからな…」と納得していた。"赤司だから"という理由の帰着がここでも通用するのかと自分のことは棚にあげて俺は嘆息した。赤司は自分がボロを出したせいで俺が責められたと謝ってきた。表情が硬く、慚愧の念が伺える。

「いや、俺もちゃんと守ってやれなくてごめんな…?」

そう俺が謝り返すと赤司はそんなことはないと首を横に振った。

とりあえず、赤司はカントクからいつでも部活に遊びに来ても良いと言って貰えたので結果オーライというやつかもしれない。火神たちのプレイを見てから赤司はバスケを気に入ったみたいだったし、本当にそれだけが救いだ。

やっと家に着くと、俺はなんとか風呂に入ってすぐさまベッドにダイブした。もう無理。疲労と眠気で脳みそが渦を巻いている。明日は休日で、他のクラブが使用するため体育館が使えず部活も休みだ。遅刻なんて気にせずに気兼ねなく睡眠を貪ろう。俺の意識はすぐに枕に沈んでどこかへ吸い込まれていった。





気に入っているメロディーが耳に入り、意識が浮上した。目覚ましなんてかけたっけ、と一瞬疑問に思ったが音声着信のそれだと気付き俺は飛び上がった。慌てて携帯を手に取ると発信元が赤司であったためますます慌てた。

「もしもし赤司?」
「こっ光樹!助けてくれっ!!」
「ハァ!?どうしたんだよ!」

開口一番悲鳴のような声で訴える赤司に俺は驚いた。赤司の息は弾んでいて、また雑音もきこえることからどうやら外で走っているようだ。学校であれだけ俺にべったりだった彼が一人で出歩いていることにもびっくりだし、変質者にでも追い回されているのだろうかと、携帯を握る手に力が入ってしまう。

赤司は若干喘ぎながら言った。


「変な奴が追いかけてくるんだ!僕のことを知ってるみたいなのだが何故か怒っている!でかくて髪の毛が緑っぽくて、っ眼鏡で片方の手の指にテーピング巻いてて意味わかんない変なものを持ってるんだ!!」


特定した。

部屋に一人だったから良いけれど、うっかり真顔になった。俺は一気に冷静になった。自然空いている方の手のひらを顔にあててしまう。

「あー…赤司その人は大丈夫、変人だけど変態ではなかった筈。取り敢えず迎えに行くからどこにいるか教えて」





「どういうことなのだよ」

と、いうわけで、キセキの世代・超長距離高弾道3Pシューター緑間真太郎さんの登場です。寒色系のインテリっぽい落ち着いた私服はすげぇ似合っていていいんだけど、今日の蟹座のラッキーアイテムは乗馬鞭のようでした。緑間を危険人物だと判断した赤司は悪くないと思う。

また、赤司との電話の後、俺はすぐに高尾に電話したので少し遅れて高尾も到着した。緑間相手に俺一人でうまくやる自信が全くなかったので、独断により呼び出すことにしたのだ。高尾は分かりづらく戸惑う緑間と怯える赤司とその間に入って疲労困憊した俺を見て、

「おはぶふぉッ」

噴き出した。俺は高尾を殴った。

ちなみに現在地はインハイ予選等を行う某体育館の最寄り駅だ。何処かで食事しながら話そうと高尾が提案したため移動する。確か、こなもんの店が午後から開店していたはずだ。昼食はお好み焼きともんじゃ焼きになった。

席に着き注文を済ませると、高尾が初めに口を開いた。

「えーと、結局赤司はどうしちゃったの?ていうか、赤司なの?」
「ここで、赤司の親戚だなんて言えたらすげぇ楽だけど…赤司だよ。記憶喪失なんだ」
「はぁ?」

そろそろ慣れて来た説明を終えると、秀徳の二人は両方ともに黙り込んでしまった。赤司を見れば嘘ではないことは明白であるし、現状を受け入れられない一方、記憶喪失という事実の理解を進めようとしているようだった。

緑間が口を開いた。

「…赤司の知り得る情報は赤司自身に伝えていないのか?」

これは緑間と赤司が会った時のこともあるのだろう。ほんの少し猜疑心めいたものが伺えるのは何故だろうか。

「いや、大まかな説明はしてたんだよ。緑間のことだって話してた。けど、口頭での説明だけじゃ実際会ってもわかんないだろ」

もっと言えば、いきなり詰め寄られ追い回されたんだ。乗馬鞭持ってる大男に。混乱してしまって以前俺から得た情報なんてうまく呼び出せなかったのだろう。自分がビビりだからその辺の感情に関しては痛いほどよくわかる。

そもそも赤司がこんな状態になってからだってまだ二週間にも満たない。俺から赤司自身に関する詳しい説明を混乱している赤司に行うのは難しかった。

「まぁまぁ真ちゃん!赤司に会えて嬉しかったのはわかるけど、忘れられてたからってしょんぼりすんなって」
「嬉しかったわけじゃないのだよしょんぼりなんてしてないのだよふざけるな高尾」

少し雲行きがよくないと感じた時にはもう高尾が会話にアクセントをつけてくれていた。本当、彼を呼んで正解だった。俺は彼に心の底から感謝した。



20130401

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