ずっと好きだった。
小さい時からいっつも俺の後ろを離れなくて、事あるごとに縋りつくように泣く幼なじみが大好きだった。
そして、少年ながらにして使命的なものを察したのか、気が付けば俺が彼女を守らなければと思っていた。

たとえ、俺がキミの『恋愛対象』でないとしても。




私たちの役柄は?




震える肩を抱え込み、無理矢理制そうとしているその後ろ姿を見付けて、俺はいつも複雑な気分になる。


「また、泣いてるの?」


彼女は振り向かず、勢いよく首を左右に振るだけだった。否定したいのだろうが、そんなものは出来るわけがない。彼女は遂に、小さな泣声を上げてしまったのだ。

俺の声を聞いて安心したのかもしれない。それとも自分が『泣いている』という事を脳が再認識して、余計に悲しくなったのか?理由は分からない。俺はこの子じゃないから。

だから俺には目の前にいるこの子を抱き締めてやることしかできなくて、その小さく震える肩を引き寄せ、その体を後ろから包み込んだ。


「大丈夫。俺がいる」


そう呟けば、彼女は俺の両腕に自分の両手を添える。涙と泣鳴を押し殺すために縋りつく彼女の指の爪が、痛いほど俺の腕に食い込んだ。

少し前まで、自分で切ったらガタガタになったと言って見せてきたあの不格好な爪の形も、今では綺麗に整えられている。

その爪が、他の男の為に研がれたものでなければ、俺はその痛みさえも受け入れようと思ったのに。そう考えると、沸々と煮え立ちはじめる憎悪の感情。


「だから、安心して泣いて」


しかし俺の口は天の邪鬼なので、感情とは裏腹の言葉をつらつらと並べていく。それを聞いて、彼女はわんわんと大声を上げて泣いた。


なんて狡いヤツ。
彼氏に棄てられた痛みに耐えきれなくて、そんな自分を慰めてもらうために俺を求める。俺なら受け止めてくれると分かっているからだ。

なんて、卑怯な子。


「(……それは俺もか)」


人のことを言えたもんじゃない、と心の中で自分を嘲笑する。だって俺は、彼女の傷心に付け入ろうとしているんだから。

あわよくば、次は俺を見てくれるんじゃないかって。もしかしたら、俺の想いに気付いてくれるんじゃないかって思って彼女に接する俺も、十分卑怯者だ。

泣き終わった後、レッドは優しいねとキミは笑う。このやり取りは、もう何回目になるのだろう。




卑怯者と偽善者




「ありがとう、レッド」


キミは俺の腕から抜け出して、満面の笑みで俺に微笑んだ。爪痕はくっきりと腕に刻まれていた。




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20101117 浅葱

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