エースと付き合い始めて分かったこと。それは、時々、ものすごく大人しくなる日があるということ。

体調が悪いのかと聞けば違うと言い、つまらないのかと問えばそんな訳がないと応える。分かりかねた私が訪ねてみたところ、彼曰わく、
男は恋人に癒し的な効果を求め、そんな恋人の側に居るだけで安心するのだそうだ。

つまりエースは、私が彼の側にいるだけで幸せなのだそうで。

そんな私たちのノロケ話。



マイナスイオン



「髪撫でるの、好きなの?」


私は雑誌を読みながら、エースは特に何するわけでもなく、お互いのんびりと過ごしていた昼下がり。隣のエースが私の髪をずっと梳いているのを見て、ふと思ったことを聞いてみた。

エースは一瞬その手を止めて、しばらくしてからまた私の髪を梳き始める。その間言葉は交わさなかった。彼の表情はずっと呆けているというか、無表情のままだ。


「嫌か?」
「そうじゃ、ないけど」


自分から問いを被せておきながら、エースはさほど興味のない様子で私の髪を弄る。

もしかして、暇が出来れば私の髪を弄ぶというのが彼の癖なのだろうか。考えればいくつか思い当たる節もある。だから少しだけ、意地悪をしてみることにした。


「そんなに私の髪が好き?」


私はじっとエースを見つめる。エースは虚ろな目線をあたしの頭へと向けている。彼の指は未だに止まることを知らず、くるりくるりと私の髪を人差し指に絡ませていた。


んー……という曖昧な返事が続けば続くほど、なんとも複雑な気持ちになっていく。ようやく応えが決まったのか、私の視線がエースの視線とぶつかる。黒い瞳が、私を捉えた。


「お前のが好き」


エースは優しく笑う。よもや自分と自分の髪の毛を比べられるなんて、と思ったが、やっぱり好きと言われて嬉しいことに変わりはなくて。

私もエースに微笑み返した。




10000打企画 ちかちゃんへ!
20101123 浅葱