僕は今迷っている。
それは僕の人生においてもなまえの人生においてもとても重要なことだった。
「いいなあ、すっごくドラマチックな展開〜」
原因はなまえの電話相手にある。それはつい最近籍を入れたばかりだというなまえの幼なじみなのだが、その彼女がいかにも脚色したような体験談を長々となまえに語っているのだ。
もちろん素直ななまえは1ミリも疑うことなくキャアキャア言いながら一緒に騒いでいる。そんな姿も可愛いけど…うんすごく可愛い、可愛いんだけどプロポーズをするこっちの身にもなってほしい。
生憎僕は例の幼なじみの旦那さんみたいにロマンチストではないし、むしろ現実主義と言っても過言ではない。普通にプロポーズをしてもなまえは喜んでくれるだろうけど……やっぱりなまえもドラマチックな恋がいいんだと分かった今、僕の妙なプライドが疼き出すんだ。
「うんうん、男らしいのもいいけど優しく言われてもたまんないよね〜!!」
今ではなまえの漏らした言葉からヒントを得ようとする始末(なんて格好悪い…)。だけどこれもなまえの喜ぶ顔を見るためだ、今更格好なんか気にしてられなかった。
またしばらくなまえが聞き手に回る、その間はいつも本を読むフリをしているのだが勿論内容は頭に入っていない。
「わかる〜!プロポーズの時くらいは自分のことを棚に上げないでほしいよね。一度でいいからお姫様気分になりたいもん」
今までのポイントを整理してみよう。男らしい言い方よりも優しさを重視、プロポーズの時くらい自分のことを棚に上げない、相手を一時だけでもお姫様のように扱う……。すると僕の頭の中にあるフレーズが浮かび上がってきた。
それは自分でも言ってて赤面しそうな勢いの言葉だった。もしかしたら何かの本に載っていた言葉なのかもしれないが、今はそんな事どうでもよかった。
「え、今から海外に新婚旅行?いいなあ……じゃあしばらく電話出来ないじゃん」
これは好都合、どうやらそろそろ電話が終わるらしい。僕は本を閉じて深く深呼吸をした、するとそれに気付いたなまえが僕を一瞥したのが分かった。
「うん、うん……じゃあまた来週聞かせてねー」
ガチャンと受話器が置かれる音がするのと同時に立ち上がる。右手にはずっと前から買っていた指輪の入ったケース。不思議そうに僕を見るなまえの前に、僕は片膝をついた。
君の人生、
僕に下さい。
唖然とする君は傑作。
title;)妄想ダイバー