「何見てんだ?」
「セミ」
しゃがみ込むあたしの後ろからひょっこりと顔を覗かせたエースは、あたしの見ているセミを見て不思議そうな顔をした。
どうしてセミなんか見てるんだ?っていう顔をして。それにあたしが見ているのは木にいるセミではなく地面を這っているセミだから尚更だ。
「このセミ見てたらさ、なんか生命の尊さを感じるのよね」
「頭打ったか?」
「ばーか、正気だよ」
あたしの隣にしゃがみ込んできたエースのおでこを小突きしようとしたら、火傷するぜと言われたから指を引っ込めた。
この島は秋島、そして季節はもうすぐ秋を迎えようとしている。秋島の秋なんてきっと綺麗なんだろうなあと思うが、やっぱりこの季節に来られて良かったと思った。
「こいつらって10年も土に潜ってるのに、一週間しか生きねェんだってよ。マルコが言ってた」
「だから余計に凄いのよ」
アスファルトを歩くセミを見て思う。こいつはきっと、もう飛ぶ気力も無いんだろうなあって。アスファルトは太陽光でとても熱いだろうに、それでも生を諦めず歩くセミは凄い(というか生を諦める生き物は人間だけなんじゃないか)
「そろそろ時間かな」
「おう、船に戻るか」
「じゃあね、セミ」
あたしがセミに軽く手を振りながらそういえば、エースが名前付けてやれよと笑った……確かに10分以上も眺めてたのに名前付けてあげてなかったね。
「ばいばーい」
人間以外の生命
10年後、キミの子供が成虫になることを祈って。
実話(´`)