あたしの好きな人は、己の夢にひたすら一直線だ。それは出会って少しの会話を交わした時から知っていたけど、そんな男前が好きなんだけど、やっぱり何となく悲しい。
だって、あたしと修行なら迷いなく『修行』を選ぶんだから。
「あたしも行きたかったなー」
「何で言わねえんだよ」
「だって、みんな行きたそうにしてたんだもん」
私の所属する『麦わら海賊団』は今、夏島の港に船を碇泊させている。この島は幸運にも海賊たちに歓迎的だったので、各々の趣味散策に明け暮れたいみたいだ。
ルフィとブルックは食堂巡り、ウソップとサンジとフランキーはスーパー、チョッパーとロビンとナミは本屋と衣服類。つまり今、この船にはあたしとゾロしかいない。
「やっと2人きりだね」
「あぁ?」
「何でもないし、バーカ」
ゾロは日課の筋トレを止めようとせず、ただ一瞬だけ、あたしの方を振り返ってそう返事をした。返事って言っても聞き返してきただけだけどさ。
こんなあたし達でも一応付き合ってるわけで。久々の2人きりなんだし、少しはラブラブしていたいのに……ゾロにそんなことを求めるあたしは欲張りなのかな。
「ねえ、暇」
「修行しろ、修行」
「……今は、したくないもん」
せっかく一緒にいられるのに、どうしてあたしに構ってくれないの。あたしのこと、本当は好きでもってなんでもないんじゃない?
そんな甘えた言葉が、あたしにはどうしても言えなかった。言ったら嫌われるかも知れないからっていう理由も1割くらいあったけど、他の9割はゾロの事を理解して納得している自分がいたからだ。
「ねえ好きだよ。ずっと、ずっと」
「………ったく」
深くため息をついたゾロは突然筋トレを止めて、あたしの隣に腰掛けた。そしてギュッと抱きしめてきて、あたしは彼の両腕にすっぽりと埋まった。
「これで満足か?」
「っうん!!」
汗臭い人は好きじゃないけど、ゾロから滴る汗は格好良くて許せるだなんて、相当惚れてるみたい。
顔を見上げたら、上から唇にキスが降ってきた。
少しだけ、愛してあげる
貴方の夢が叶った暁には、もっともっと愛してね。