あと少し、気付くのが早ければ何かが変わっていたのかもしれない。
海軍中将の軍団に苦戦していた私の目に飛び込んできたのは、ルフィに向かっていく赤犬の姿。
「!あぶないっ」
私は頭で考えるより先に、2人の元へ駆け寄ろうとした。しかしその行動が徒となって今まで戦っていた相手に隙を見せてしまった。
次の瞬間、私の片手首は海楼石の手錠にはまっていた。
「くそっ……!」
「覚悟するんだな、白ひげ」
「っるさい!!」
靴に仕込んでいた暗剣を中将に飛ばす。それにいち早く気付いた中将は間合いをとって私から離れた。
「ほう、悪魔の実が無くともなかなかの戦闘能力だ」
「…………」
それから数秒間、両者睨み合って動かない時間が続いた。
早くエースの元へ行きたいのに、今背を向けてしまえば、能力の使えない私は完全に負けてしまう……!
「そこまでして火拳を助けたいか」
「当たり前だ」
「そうか、残念だったな」
口元を緩ませながら構えた剣を下ろす中将。最初はそれが何を示しているのか分からなかった。だが集中力が切れたせいで次第に周りの声が耳に入っていく。
何とも嫌な予感がした。
「気になるのなら振り返ってみればどうだ、10秒くらいなら猶予をやろう」
「……なに?」
「1………2………」
目を瞑ってカウントを取り始める中将、どうやら冗談ではないらしい。私は適度に背後を気にしながら自分の真後ろを振り返った。
「………エース……?」
そこにはルフィを覆うように庇うエースの姿があった。
そんな2人を見下ろす赤犬の腕は血まみれになっていて、未だにポタポタと血が滴っている。
「5………6………」
後ろでカウントを数える中将の声など耳に入ってこなかった。しかし、時間はただ冷酷に過ぎていく。
「う、うそ……そんな……」
「7………」
体が、動かない。
近くに寄って助けてあげたいのに、金縛りにあったようだった。
「8………」
「エース!!!!」
私の声に反応したのか、エースがこっちを向いて微笑んだ。そして私に何かを伝えようと口を開いた瞬間、
「10」
私のタイムリミットがきた。
「………あ……っ」
私を襲った痛みは5カ所。そして貫かれたのは四肢と、心臓。死に際に見たのは、驚いていたみんなの顔。
ごめんね、みんな
敵に背を向けた時点で私は終わっていたのかもしれない