「別れよう」


私は昔からずっとデンジくんが大好きだ、そしてその事実は今もは変わらずあたしの心の中でキラキラと輝いている。

そんなあたしの前にいるデンジくんは目を見開いて、彼がさっきまで握っていたあたしの手はブランと虚しく宙で揺れた。


誰がデンジくんにこんな顔をさせたの?彼女であるあたしですら見たことない表情なのに、ずるいよ。そう呟いたのは心の中のあたしだった。


「何言ってんだよ」

「だって、デンジくん最近ジムの仕事疎かにしてるよね、嫌だよそういうの」


そう発したのは紛れもなくあたしの口で、そこであたしはある重要な事に気が付いた。さっきの言葉を発したのも、デンジくんの目を見開かせたのもきっとあたしなんだ。

それは正に理屈が私情に勝った瞬間だった。


「それが、別れることと何の関係があるんだよ」

「あたし知ってるの、デンジくんがあたしと会うために仕事休んでいること」


そう、本当はずっと前から知っていた。だけどそこまであたしを大切にしてくれる彼が大好きなあたしは、知らないふりを続けていたんだ。

でもデンジくんの事をもっと深く想っていくにつれて「あたしのこと大切にしてくれてる、嬉しい」と感じていた気持ちも、いつの間にか「このままではデンジくんのためにならない」という気持ちに変化してきた。これはきっと、愛の結晶なんだと思う。


「あたしはデンジくんが大好きだよ、だけどあたしを好きになって落ちぶれていくあなたを好きにはなれないの」


矛盾してるって分かってるんだよ。デンジくんの気持ちを受け入れないことが裏切り行為だって事も分かってる。けど、もう決めてしまったんだ。そしてあたしはこの事を伝える為にデンジくんを呼び出したんだ。

ああ、あやふやだった記憶が全部蘇ってくる。昨日のあたしはどれだけ冷静だったんだろう、今日のあたしなんか今にも泣き出そうな気分なのに。


でもね、


覚悟を決め、それを決意したのは他の誰でもない、自分自身
焦ったあたしは何も考えられなくなった。だから昨日のあたしを信じて言葉を紡いだ。


title;)虚無




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