キッドの髪は全てを燃やすような緋色だとみんなに恐れられた。あたしの髪は全てを包むような藍色だとみんなに崇められた。





「この差はなんだろうね」
「ハッ、人の好みだろうよ」





確かにそうだ。あたしの髪を悲しみの色だと忌み嫌う人もいれば、キッドの髪を太陽のように暖かいという人もいる。まあ後者の言い分は、専らあたしのものなんだけど。

そんな彼が今日、村を出て海賊になるらしい。そのことに歓喜を発する者もいれば、行かないでくれと請う者もいた。





「うん、結局は人の好みだね」
「そうだろ?」





キッドは豪快に笑った。嗚呼、こんな彼を見るのも今日で見納めになるのかもしれない。海とは、海賊とはそういうものだと父に何度も聞かされた。

1度海に出たら、2度と戻って来れないと覚悟しておけ、と。





「テメェは来ねえのか」
「うん」
「即答かよ」
「ごめんね、あたしってそんなに精神的に強くないから無理だ」





そう言えばキッドは何も言わなくなった。彼は賢いから、きっとあたしの真意を理解したのだろう。

これ以上追求してこないのが、あたしにはとても有り難かった。





「じゃあな」
「うん、ばいばい」





「好きだったぜ、お前のこと」
「あたしも大好きだったよ」





今まで言えなかった気持ちが溢れてきた。いつもみたいな恥ずかしさは全くなかった。

それはきっと、あたしの中で父の矜持が何度も轟いていて、彼は2度と帰ってこないと思っている自分がどこかに居たからだ。







緋藍
赤は青に惹かれて、朱は碧に惹かれて、紅は蒼に惹かれるように。







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