啖呵を切った次の日、トキワジムで戦闘は始まった。結果は言うまでもなく私の“惨敗”。自分でも始まる前から薄々分かっていた、憧れを越えることなんて出来ないって。
「なん、で…!!」
なんで涙がでてくるの?
負けた悔し涙?
それともこれは 嬉 し 涙 ?
「泣くほど悔しかったのかよ」
「!」
自分の背後から聞こえてきた声を聞いて私の体はビクッと反応した。でもこんなヒドい顔を見せられるわけもなく、ほんの少しだけ顔を上げると私に覆い被さるように後ろから伸びたグリーンさんの影があった。
辺りはすでに夕陽色と一体化していて、彼の影がより黒く映し出されている。
「そんなに辞めたかったんなら辞めればいい。オレはもう、止めない」
グリーンさんの言葉を聞いて余計に涙が溢れた。昨日まではあんなに止めてくれてたのに、なんで今になってそんなに淡白になるんですか?
余計に頭の中がぐちゃぐちゃした。
「お前はどうか分からないけど、オレはなまえと少しでも一緒に過ごせて楽しかった。ありがとう」
「私、辞めるなんて……」
「辞めたい、んだろ」
自嘲気味に笑うグリーンさんなんて初めてだった。
いつも自信満々でありったけの余裕をかましてて、人間としてなら大っ嫌いな人だったのに。所属ジムのジムリーダーでなかったら喋ってさえいないような人なのに。
すごく胸が痛んだ。
「分かんないです……辞めたいか、辞めたくないか」
「……なんだよソレ」
影に映るグリーンさんの顔が横向きになって、ちょっとむくれたような声が聞こえてくる。
「じゃあ気持ちの整理出来るまでジムで働いてくれよ。な?」
「………はい」
私の返事を聞くとグリーンさんはすぐさま立ち去った。
わかんないの、もう
今日の彼は、優しかった