エムリットは優しい。
何の取り柄もないあたしの傍にいつもいてくれた、最期まであたしを見捨てないでいてくれた、あたしはアナタが大好きだった。
「急に、何」
あたしの感情を読みとって目をキョトンとさせているエムリット。あたしに触ろうとする手がゆっくりと此方に向かってきたが、その手があたしの体に触れることはなかった。
あたしを、通り抜けた。
「なんで、触れないの?」
エムリットは両手をパタパタとさせてあたしの体に触れようとする、あたしは思わず苦笑いした。だってそれは余りに不可能な事だったから。
何かを悟ったエムリットはあたしの顔をジッと見つめてきた。あたしはまた、笑うことしか出来なかった。
「まさか、なまえ、」
( さ よ な ら )
あたしの口がそう紡いだのと同時にエムリットが固まったのがよく分かった。
最期まで一緒にいてくれてありがとう。何十と年を重ねても、昔ほど早く動けなくても、アナタはあたしを見捨てないでいてくれた。感謝しています。
最期の最後に見たのは涙を流してくれたエムリットの姿。あたしの視界は次第に白く染まっていった。