「待ちなさい、清正!!」
「………瀬奈さま」
瀬奈は振り返った清正の腕にしがみつき、必死の血相で彼の瞳に訴えかける。その眼には大粒の涙が埋め尽くされていて、それを見た清正はそっと目を伏せてから視線を反らした。
「話が、話が違います!!」
「申し訳、ございません」
「なぜ…っ何故三成がいないのです!?」
瀬奈の、叫びにも近い尋問は続く。
その騒ぎを聞き付けたのであろうか、女中たちがわらわらと集まってきては清正から瀬奈を引き剥がそうと彼女の腕をつかむ。
「お戻りくださいませ、瀬奈さま!」
「あなた、私に言ったではありませんか!これは豊臣を存続させるための逃亡であると!!いずれ訪れるであろう、笑って暮らせる世のための布石であると!!」
「……ええ、言いました」
「三成も、三成も『豊臣』の一部なのではないのですか!?父が……父が守れと言った豊臣には、あなた方も含まれているのでしょう!?なのに、」
「…………」
「な、のに……!!」
抱き締めたいと思った
けれど、それは叶わない。
彼女が欲しているのは、俺じゃない。
「三成がいないと、私は……私、は…」
泣き崩れた瀬奈さまを連れて、女官たちは彼女の部屋へと戻っていった。俺はそれに背を向けて歩き出す。
「………三成」
俺はやっぱり、お前が嫌いだ。