あの人が戦死してから云十年、僕の中には未だにあの人が住み着いていた。顔は写真を見ないと正確に思い出せないし、声なんて凛としていたことしか覚えていないのに。

なかなか僕から消えてくれない。





「あ、」
「どうした?」
「雪だよ、一角」





窓から手の甲を差し出せば、ぽわっと上手に乗った。そして目の前に運んでくる……が、時既に遅し。僕の甲の上に雪の姿はなかった。もう水になってしまったのだ。


なんだ、つまらない。
そう思って水を落とすために手をブランブラン振ったが、まだ少し濡れた感覚があって。それがなかなか乾いてくれなかった。







愛は雪のように儚く
それなのに、シミのようにいつまでも纏わりつく。








「雪なんて、僕は嫌いだね」





自嘲するように言い捨てて窓を閉めてみれば、一角は刀を研ぐ手を止めて刃を確かめながらこう言った。





「……そういえば、あの人は好きだったよなァ。雪」
「!!!」





ほら、貴女はいつまでも僕に纏わりつくんだ。儚い愛は既に散ってしまって、もう貴女への愛し方さえ分からないというのに。







企画サイト様、水没へ提出。
ありがとうございました。