「恋は、苦しいものですよ」
さも当たり前のように言い切ったなまえを見て、あたしは何も反論出来なかった。そっか、と相槌を打って話を逸らすことしか出来なかった。
「(だって、ねえ…)」
あの子が、あんなにもはっきり意見してきたんだもの。それはもう、数十年一緒に過ごしてきた中でもダントツにはっきりと。
正直言って、あたしはなまえをよく知らない。好きな色とか嫌いな食べ物とかそういうのは別で、なまえの生い立ちとか出生とか経歴とかの話。
聞いてみても覚えてないってはぐらかしてくるし、かと言ってあたしがオープンになっても踏み込んでこようとしない。難しいのよ、なまえって。
でも、ありとあらゆる秘密を抱えているなまえが容量オーバーになって壊れないのは、きっとその秘密の共有者がいるからで…あたしが思うに、それが弓親だったんだろう。
でも、今のなまえに『弓親のことが好き』って秘密を共有できる人がいなかった。だから今回は、自分一人で抱え込んじゃって爆発したんじゃないかなあ…なんて。
単なる推測だけどね。
「で、俺にどうしろと?」
「弓親となまえをくっつける!あんたも手伝いなさい!」
白昼堂々といい放った乱菊に、一角は頭を抱えた。周りに客がいなかったからいいものの、あの2人がいたらたたじゃすまなかっただろう。
………そもそも、みょうじはなんでコイツに秘密を話したんだ。
「?なによ」
「これは俺たちが足突っ込んでいいような話じゃねえんだよ。あいつら二人の問題だ」
「そんなのあんまりだわ!あの子、弓親に面会拒絶までされたのよ!?」
一角は目を見開く。
あの時、呆然と雨に当たってたのはそれが原因か……てっきり面会したあとになにか言われて凹んでいたのだと思っていたのだ。
「とにかく。この事は誰にも公言するなよ」
「しないわよ」
乱菊は請求書を一角に叩きつける。
払え、ということらしい。
一角はため息混じりに会計を済ませると、そのまま乱菊と共に九番隊隊舎へに向かって歩き出した。
「あんた、いつから知ってたのよ」
「いつだっけなァ…………」
「おい弓親!しっかりしろ!」
「………、……」
「ああ!?聞こえねえよ!」
「………なまえ…」
「まあ、最近だ」
「へえ、じゃあ同じね」
201/02/25 浅葱