カーテンが夜風で揺らぐ。外では、いつの間にか本格的な雨が降り始めていた。
消灯時間を過ぎても中々寝付けない僕は、今日のことを思い返す。
彼女はきっと、僕が隠れていたことも分かっていただろう。あの瞬間は忘れていたけど、思い出したんだ。彼女の霊圧探知能力が優れたものであったということ。
ならばやはり、僕は彼女に…なまえに酷なことをしたんだろう。そんな感傷に浸ろうとした刹那、ドアの向こうに小さな気配を1つ感じた。手は、自然と懐の小刀に伸びる。
「…そこに立ってる人、話があるなら早くおいでよ」
返事はなかった。だが、同時に気配が消えることもなかった。
消灯時間を過ぎた建物は真っ暗だ。だけど霊圧さえ分かれば居場所なんて突き止められる。
今日の、なまえのように。
「しし失礼、します…」
「……君は確か、」
山田花太郎。
数ヶ月前に、なまえが一度世話になったと言っていた人物だ。礼を言いに言って以来会っていなかったし、正直印象に残るようなやつじゃないのに。何故か、覚えていた。
向こうもまた、僕が名前を覚えていたことに驚いているようだった。
「あ、あの、お話が、」
「……なまえのこと」
だよね、と付け加えて笑ってみたら、花太郎は握り締めている拳を今一度握り直して頷いた。
いつもはオドオドと泳いでいる瞳は見たことないくらい真っすぐに僕を捕らえていて、そんな瞳に映る僕は自嘲気味に微笑んでいた。
「今ね、僕も考えてたんだ」
それからしばらく沈黙が続いた。白光る月が雨雲の中にすっぽりと収まってしまって、雨雲の中から何とも不気味に淡い光を放っている。
何故だろう。
嫌いではなかった。
20110113 浅葱