「いやー、あの弓親ねえ」


ニヤニヤと笑う乱菊さんに、言わなければ良かった、と後悔したのは言うまでもない。私は体中の熱が顔に集まっていく感覚に、半ばしようがない諦めて話を続けることにした。


「いつから知り合いなの?」
「私がまだ流魂街にいた頃、助けてもらったんです」
「へえ?」


乱菊さんは肘で私をつついて、それからそれからと先を促す。でも私には乱菊さんの期待に添えるような展開を披露することができない。そんなもの、全く以てないのだ。

私は苦笑いするしかなかった。


「何もないですよ」
「うっそだー」
「本当です」


乱菊さんは全然納得がいかないといった様子だが、こればかりは仕方ない。私にはどうしようもない事実なんだから。

しかし一転、表情をパッとさせて私を指差す乱菊さん。私は、自分に向けられた指がどうにも不愉快だったが、言えなかった。

そのせいか、私の口調は次第に棘を帯び始めた。


「あ、過去に付き合ってたとか」
「ありませんね」
「告られそうな雰囲気に、」
「なってません」
「…押し倒されたとかは、」
「有り得ません」


私に向けられた指を自分とは違う方向に向けさせて何事もないような顔をすれば、乱菊さんは少し眉をひそめて寂しそうな顔をした。

私は驚いた。まさか、私が少し苛ついた話し方をしたのがまずかったのだろうか。


「なんで、乱菊さんがそんな顔してるんですか?」
「………」
「乱菊さん?」
「……あんたさ」


そのままの表情で放たれた乱菊さんの言葉を聞いて、私は鈍器で殴られたような感覚に陥ることとなる。


「恋してて、楽しい?」



どうしてだろう
目の前で話している人が赤の他人に思えてきたの。




「何を言ってるの?乱菊さん」
「恋は、苦しいものですよ」


20110110

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