「君は、一体誰なんだ」


毎日遠くから貴方を見ていた、だがそんな私もとうとう“彼”に見つかってしまった。何故いきなり彼と称するのかと言われれば、私は貴方を後ろからしか見たことが無かったからだと言おう。女と見紛うほど艶やかで長い髪を持つ貴方なのに、正面から見た時、やっぱり顔は男なんだと何だか少し驚愕した。


「私は貴方に恋心を抱く者です」


そう言ってみれば彼は目を見開いて何も答えなかった。こんなみすぼらしい女、とでも思ったのだろう、それが妥当だ。私は彼のような綺麗な着物を着ていないし、ならば顔は綺麗かと言われれば頬に傷や砂跡をつけているような女だ(これはさっき転んでまだ洗っていない、今から川へ洗いに行くところだった)


「さようなら」


私は踵を返してもと来た道を帰っていった。こちらから行けば川へは遠回りになるが仕方ない、近道をすれば彼がいるんだもの。私は少しも速度を落とすことなく早歩きをして川を目指した。彼と喋れたのに全然嬉しくなかったのは、私の彼への想いが“恋心”でも“憧れ”でもなかったからだと思っていた。




瀞霊廷通信連載『徒花』より抜粋

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