恋をした時、死にものぐるいで努力をすれば必ず幸せが訪れる…なんてことは言い切れない。世の中には『伝えられない想い』というものが確実に存在するのだから。
だから私は諦めるんだと、何度も何度も自分に言い聞かせた。
もしも、私が
「なまえ!」
明るい声が私を呼び止める。
私は風で流れる髪を抑えながら振りかえってみた。そこには、笑顔で私を追いかけてくるエースの姿。
「どうしたの?」
「お前、今から買い物だろ?」
荷物持ちしてやるよ。
そう言って変わらぬ笑顔で私の隣を歩き始めたエース。何を買うんだと聞かれたから、研ぎ石だよと答えたら、エースはなまえらしいなと言ってクシャっと笑った。
それからしばらく他愛のない話が続いたが、ふと、エースが何かを思い出すかのように難しい顔をし始めたのをきっかけに、沈黙は続いた。
それからすぐにエースはパッと向き直った。そして意外そうな表情で私を見つめるのだった。
その魅力的な唇に
「思い出した。お前、次の町から別行動なんだってな」
「うん。もう聞いたんだ?」
「ナース達が言ってた」
ああ、そういえばナースさん達には早い目に言ってた気がする。ガーゼとか包帯とか、最低限の物は必要だと思って話してたんだっけ。
「…気をつけろよ」
エースは眉をハの字にして不安そうな顔で此方をみつめる。彼の親身な態度に、私は胸が温かくなるのを確かに感じた。
「ありがとう。でも、大丈夫。私だってやれば出来るんだから」
「……そうだな」
ポンポンと、なだめるように頭を叩いてくれる手が嬉しかった。そのまま上を見上げれば、穏やかな表情を浮かべたエースが私を見ている。
刹那、私の目に付いたのは、
彼の形のいい唇。
キスを落とせたなら
「(私から、キスしたなら、)」
エースはどう思うのだろうか。どんな表情を浮かべるのだろうか。
迷惑?驚愕?困惑?
まるで検討がつかない。
「(不意打ちなら、出来るかな)」
繋がった唇から、私の思いが全て流れていってくれたらいいのに。彼が私の気持ちに気付いてくれたらいいのに。
彼を好きだと言うことを諦めきれず、いつまでも引きずって日に日に自信喪失していく私には、そんな幻想しか思わざるをえなかった。
前へ進めるだろうか
「(無理だろうなあ)」
好きという気持ちですら伝えきれてない私が、キスをしてから上手く事を運べるとは思えない。きっと、勝手にギクシャクして、エースにも迷惑を掛けてしまうんだろう。
「どうした?なまえ」
「…なんでもないよ」
だから私は、せめてこの人の良き友人であることにしよう。
‐‐MEMO‐‐‐‐‐‐‐‐
片想い女の子。世の中には自分の思いを伝えれない女の子がたくさんいるんですよって話。形のいい唇を見るとキスしたくなるのは浅葱の性癖←
みなさんは片想いの経験ありますか?浅葱はあります。奥手で何にも出来なくなるタイプです。
20110125 浅葱