「行ってしまうのかい?」
「……はい」


エンジュシティの四季は美しい。今も雪がはらはらと優しく舞い降りている。そんな中に2人はいた。

なまえが寒そうに首をかがめながら手に息を吐くのを見てマツバは自分のマフラーをなまえにかけようとしたが、丁寧に断られてしまった。何も言えなくなったマツバには黙る術しかなく、またもや沈黙が流れる。

それを破ったのはなまえだった。


「ちょっとマツバさん、そんな顔、しないでくださいよ」


勘違いしちゃいますよ、と失笑気味に言うなまえの鼻は赤い。やはり寒いのだろうかと思ったマツバは手袋をした手でなまえの両頬を包む。

その予想外の行動に琴子はただ唖然とした。交差する視線の先にはお互いしか見えていないようだった。


「マツバさん……?」
「勘違いしてもいいよ」
「え?」
「自惚れても、いいよ」


マツバの、いつになく真剣な眼差しになまえは心臓をわし掴みされたような気分になった。ハッと我に返ってマツバの両手を引き離すと、真っ赤な顔を隠すように斜め下を向ける。

それを見てマツバは嬉しそうに笑った。そしてなまえの片頬にもう一度手を添えると、耳元へ口を寄せる。

なまえの肩がピクリと跳ねた。


「待ってるから、ね」



嘘じゃないよ



「い、いいいってきます!」
「ふふ、いってらっしゃい」


急いで走り去って行くなまえにマツバは手を振り続けた。途中、何度か振り向いて確認するなまえの顔は満面の笑みだった。




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第三者視点難しい!

20110105 浅葱

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