あんなヤツ、大嫌いだ。
誰にでもヘラヘラしているくせに自分の本心は見せようとしない。ずっと笑顔でいるくせに、悲しいの表情を見せようとしない。
アイツは、どうすれば人が喜ぶかを知り尽くしているんだ。ボクが持っていないような器用さでみんなを魅了していくんだ。そんなずる賢くて周囲に敵を作らないアイツなんか、
なまえなんか大嫌いだ。
“君を嫌いなボク”
「シンク」
静かに名前が呼ばれた。振り返ってみれば慈しむような笑みを浮かべるなまえがいた。
やっぱり振り向かなければ良かったと思ったが、後の祭りというやつだ。まるで体の自由が利かない。ボクは吸い込まれるようになまえの元へと歩き出していた。
ああ、まただ。
それは真実なのに
「なまえ」
「ん?どうしたの?」
「……何でもない」
なまえはまた優しく微笑むと、何も言わずにボクの手を両手ですくって包み込んだ。吐く息も白くなるこの季節、手と手で伝わる体温は何とも心地よかった。
きっと温かいと感じるのは手だけじゃないんだろうけど、でも認めたくなかったんだ。
どうしてだろう
惹かれるボクがいる
もう一度言っておくけど、ボクはなまえが大嫌いだ。
ボク以外に向けられているその笑顔も、ボク以外にも変わらず優しく接するその態度も、
みんなみんな、大嫌いだ。
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「嫉妬=嫌い」なシンクさん
20101230 浅葱