「何死んでんのよ、アンタ」


マルコに教えられた場所にはお父さんと、エースの墓があった。
気の利かないあたしは、供え花なんて持ってこなかった。ただ、墓の前につっ立っているだけ。




すきでした




「アンタ、あたしと出会って生きる気力貰ったとか何とか言ってたじゃん。あれ、嘘だったの?」
「あたしとの子供欲しいからまだ死なないとか言ったのも、嘘?」
「ねえ、何とか応えなさいよ」



問いかけても、問いかけても、返事など返ってくる訳もない。
どこかにありそうな物語みたいに、一陣の風が、まるで応答するかのように吹くわけでもない。

あたしはカッとなって、供えられていたワインの注ぎ口を掴んで、振り落とした。




大すきでした




「やめろなまえ!」
「うるさいっ!離せ!」


あたしが振り落とした手を掴んだのは、マルコだった。降ろす降ろさないの攻防によってワインの中身はバシャバシャと揺れる。


「エースはここにはいない!
死んだんだよい!」


マルコの言葉が、あたしの脳内を侵食するかのように融け始める。

嫌だ嫌だ嫌だ。
あたしは目を見開いて顔をあげ、目の前で微動だにしない墓石を睨みつける。そこにはアイツがいつも被っていた帽子が、持ち主をなくした空の状態で掲げられているだけ。


アイツはもう、いない。


「なん、で……っ」


あまりに酷い仕打ちだ。
そう思うと今度は涙が止まらなくなって、あたしは力なく崩れ落ちることしかできなかった。

怒ったりしてごめん。カッとなってごめん。責めてばかりでごめん。
ぶっきらぼうな性格も、短気な性格も、雑な性格も全部全部治すから。命張ってでも治すから、だから。





「おいてかないでよお……っ」




愛してました


20101110 浅葱

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