1人暮らしをしていると、
自分の体調管理を疎かにするものだと、誰かが言ってた気がする。
ニュースのコメンテーターかもしれないし、どうでもいいバラエティー番組のゲストかもしれない。

取り敢えず誰かは忘れたけど、確かにその通りだと実感したのは今日の朝になってからだった。




逢い鍵を使って




「ケホッ」


小学生以来の風邪を引いた。
昨日の夜から喉が痛かったし、体にも倦怠感みたいなものがあったから覚悟はしてたけど、
それでもやっぱり辛い。


「(喉……乾いたな)」


あたしは肘を使って上体を起こし、ベッドから足を投げ出す。
重い体を持ち上げるために力を入れたせいか、いつもより大きな音でスプリングが軋んだ。

そのまま壁伝いに扉を目指そうと歩き出した、そのときだった。


ガチャ


「病人は大人しく寝てろ」


扉が開いた音と共に聞こえてきたのは紛れもなくローの声で、
あたしは壁にもたれかかったまま、思わず立ち止まった。

ローは何の躊躇もなく部屋へ入り込み、あたしを持ち上げてベッドまで強制送還する。


「え、あ、え……えええ?」
「何だその反応は」


あたしは働かない頭を必死に動かそうとするが、どうにも混乱していて、上手く整理できない。

見かねたローがため息を挟む。


「電話、出なかったろ」
「……ごめん、気付かなかった」
「心配だったんだ」


ローはピアノの前にあった椅子を持ってきて、ベッドの傍に置き、座った。目線は自身の膝に置かれた握り拳に向かっている。


「ケホッ……移っちゃう」
「そんなにヤワじゃねえよ」


そう言って、笑ってあたしの頭を撫でてくれたローの瞳は優しくて、すごく心が暖かくなった。




君に逢いにいく




「ケホッ……」
「ゴホゴホッ……」

「「………」」

「結局、お揃いだね」
「ちくしょう」



・・・・・・・・・・
風邪には
お気を付けください。
20101109 浅葱

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