「情報屋だったのか」
後ろは壁、喉元あたりには海楼石が仕込んである十手の先端。能力者である私には絶体絶命のピンチ。
なのになんでだろう、不思議と笑顔がこぼれてきた。
「うん、ごめん、ね」
目の前にいるスモーカーさんはまるで別人のよう。ああこれが仕事の顔ってやつなのかな。初めて見た『表情』がこれだなんてなあ、なんて思いながら目を閉じた。
彼と出会ったのは海軍御用達のバーだった。私はそこで海軍の関係者を誘惑しては体を重ね、彼らがストレスによる自暴自棄で暴露した情報を海賊に売るのが仕事だった。
それは物心ついたときからやっていた事だから正直私には何の罪悪感も湧かない。だってそうでしょ?両親に捨てられた小さな女の子が生きていくためには、体を売るのが一番手っ取り早かったんだから。
そしてありがたいことに私の体はその行為自体好きだったようだ。なんてアバズレな女なんだろう私は。
「スモーカーさん、」
「喋るな」
「ごめんね、」
私、フツウの女の子に生まれてスモーカーと出会いたかったな。
そう言えばスモーカーさんの眉はピクリと微動した。よかった、反応してくれた。あたしの心にあったモヤはすっと消えていった。
その身を滅ぼすは恋
アイツを海軍に引き渡して事情聴取をさせたら、意外な方法で情報を得ていたのが分かった。
そして分からないことがある。アイツが何故最後までおれを狙おうとしなかったのか、ということだ。
アイツと知り合ったのは半年も前のことだからおれが狩られてもおかしくはない、前例では1日というのもあったらしいからな。だかアイツは一回もそんな素振りを見せようとしなかった。
そしてそれを考えると、再びアイツが最後に涙を流した姿がフラッシュバックする。アイツは一体、おれに何を求めていたんだろうか。
「くだらねえ」
「い、いきなりどうしたんですか?スモーカーさん」
隣から聞こえてきたたしぎの声にふと我にかえる。そう言えば今は仕事中だったか。
「、さあな」
おれは淹れさせたコーヒーに一気に飲み干した。何故だ、それ以降アイツ以外が淹れたコーヒーはどうにも不味く感じられた。