なまえがよく甲板に出ているのを船番が何回か目撃していた。初めはあいつを脅しに行こうと思った。せっかくおれが気に入って船に乗せてやったのに、一向に靡こうとしないあいつに『海に落ちても助けねーぞ』と言ってやろうと思った。

今から考えれば幼稚な行動だ。だがそんな幼稚な行動をしたのは、そうでもしないとなまえとは関わりすら持てそうになかったからだろう。


シンチレーション


昼間は晴れていたから今日の空は綺麗だろう。そんなことを思いながら外に出てみれば、やはり空は満天で我ながら呆れが出てきた。

なんだおれは、ついに夜空の推測まで出来るようになったのか。少し前までは曇り空との区別すら出来てなかったのに。

「よく飽きないな」

無防備に大の字を描いて寝ころんでいるなまえを見て思わずため息混じりの声がでた。その原因には毎日飽きずに空を見上げているということもあるが、何よりこいつの無防備さに対してだった。海賊船だぞ、己の欲に溺れた男だらけなんだぞ。
なまえは首を立てておれを見る、どうやらいつもと同じく起き上がる気はないようだ。

隣で本を読む『振り』をするのも馬鹿らしくなってきたおれは、その持ってきた本を椅子代わりにして座ることにした。

「読まないんですか、本」
「飽きるほど読んだ」

嘘だ。しかしなまえは疑う様子もなく納得した。何なんだ、普通の女なら『どんなことが書いてあるのか』とか言って話を広げようとするんじゃなかったか?
もしかしてコイツ、おれに全く興味ないのか?……ああ今更か。煮え切らないおれは核心をつくことにした。

「そんなに空が好きか?」
「いえ、そこまでです」

なまえは悪びれなく言うが実はおれにとったら結構キツい言葉なわけで、これでおれがコイツと話せる話題がなくなったってことか。
せっかく毎日星の本とかチラつかせてたんだがな、気付きも掠りもしねえのはそのせいか。

だがこんなに毎日通ってやってるんだ。おれの気持ちに気付いて意識し始めてもいいぐらいなんじゃないか?

「……お前、鈍いのか?」
「いいえ」

むしろ敏感な方ですかね。

即答だった。それに今までの中で最も生き生きとした笑顔だったから、おれは思わず舌打ちした。
だって悔しいだろ。このおれが手玉に取られていたこととか、なまえの不意打ちの笑顔に柄にもなく心臓が飛び出るくらい鼓動が激しくなったとか。

「なら分かってたのか」
「どうでしょう」

最後まではぐらかすなまえにおれは嘲笑を込めて空を見た。


ああ畜生、絶対手に入れてやる。


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シンチレーション
=星の瞬き

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