「シカマル……くん?」



 ひどく懐かしいその声。振り向いて声の主が俺の目に映った瞬間、心臓がきゅ、絞り上げられたように痛んだ。



「せ、んせ……?」

「やっぱり。シカマルくん、大きくなったわね」



 ふわり。花のような笑顔は俺の持つ記憶の中の先生と全く変わらないまま。あれから何年も経っているのに相変わらず綺麗だ、そう感じる自分がいた。
 ガキだった俺。なんとかして先生に俺を見て貰いたくて一人焦って。先生に近付く野郎の先生をボコボコにしたこともあったっけな。
 そんな俺のこと、彼女はどう思ってたんだろうか。やっぱり扱いづらい問題児だと、そう思っていたんじゃないだろうか――?





「しぇんしぇい、血が出た……」

「あー……擦りむけてるね。ちょっと待ってね?」






 ちょんちょん。先生が塗ってくれたそれは、傷口の周りまでも赤く染めた不思議な液体。





「ばい菌入ったら大変だから」





 そういってにこり、微笑んだ先生。今思えば、あの笑顔を向けられた瞬間に俺の中で先生という存在が特別なものになったんだ――










 ぼんやりと昔を思い出していた俺の耳にくすくす、小さな笑い声が届いて。顔を上げると、先生も何かを思い出したように懐かしそうに顔を綻ばせていた。



「……なんすか?」

「……ん、思い出してたの。シカマルくんは覚えてないかも、だけど……」

「……?」



 そういって俺の耳元で囁かれた先生の嬉しそうな告白に、俺は恥ずかしさのあまり掌で目を隠して天を仰いだ――





マーキュロクロム





「プロポーズ、してくれたんだよ?」





 先生が塗ってくれたアレは、どうやらまだ俺の心に染み込んだままらしい――



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