それからほぼ毎日と言っていいほどカカシはなまえの練習に付き合っていた。それは暇つぶしという下心と気紛れによるものだったが、周囲に衝撃を与えるには十分過ぎる行動だった。その裏に隠された思惑など誰も気付くことはなく、特にカカシと親しい忍たちはあれほど酷かった女性関係を止めてなまえに付き合うカカシの姿をむしろいい傾向だと喜んでさえいた。カカシ自身そう思われているのは理解していたが、こちらもまた好都合だとあえて何も言わないでいた。つまり今、嫉妬に駆られたカカシの過去の暇つぶしたちになまえが囲まれているのはひとえにそういったカカシの行動によるものであった。


「──だからね、カカシにこれ以上関わらないでくれない?」
「……」


 女の嫉妬ほど恐ろしいものはない。しかも一人だけならともかく、集団で来られるとその恐ろしさは倍増どころの話ではなかった。故になまえは言葉を発することができないまま、ただ身を縮こまらせるより他なかった。


「聞いてるの?!」
「……!」


 苛立たしげな口調に圧されて慌てて首を縦に振る。けれどそこですぐに口が開けるほどなまえは気が強い訳ではない。カカシとの関係も、ただのコーチと教え子にすぎないと頭では言い訳できても言葉にならない。これも不器用たるなまえであるが故と理解している者には解るが、いかんせん相手はなまえのことなど微塵も知らないのだ。よって、曖昧な笑顔を浮かべるだけのなまえにさらに苛立ちを募らせるのは当然といえば当然だった。


「笑ってないで言いなさいよ。二度とカカシに関わらないって」
「、それは……!」


 自分から関わった訳じゃない、そう言おうとしてなまえはここ数日熱心にコーチをしてくれているカカシを思い出して口を噤んだ。口ではなんだかんだキツいことを言うもののカカシの助言はいつでも的確で、少しずつではあるが店での失敗も減りつつある。ここでカカシがコーチを辞めてしまえば、おそらくまた自分は失敗ばかりの毎日に戻ってしまうのだろう。それだけは避けたかった。不器用な自分のせいで迷惑をかける毎日はなまえをどうしようもなく落ち込ませていたのだ。意を決したように顔を上げたなまえは静かに口を開いた。


「……私、どうしようもなく不器用で、自分で自分が嫌になるくらいで、あの、だから、見ていられなかったんだと、思うんです」
「はあ?」
「ほ、本当に不器用で、以前、お店ではたけさんの、あ、頭にあんみつをぶちまけたことが、あって」
「なんですって!」
「そ、その時は、もちろん怒ってらっしゃいました」
「当たり前でしょ! なにやってくれてんの!」
「け、けど、その後……数日してからはたけさんがコーチを申し出てくださって……多分、ですけど、同情、されたんだと思います……」
「……」
「……ごめんなさい。だけどもう少し、もう少しだけでいいんです。最近やっと、少しずつですけど失敗も減ってきたんです。お願いします。もう少しはたけさんにコーチしてもらうことを許してください」


 深々と頭を下げたなまえに女たちは困惑を隠せない。反論してくるか泣き出すだろうと考えていたのに、目の前の女の取った行動は予想外のものだったからだ。しかもカカシに特別な想いを抱いている訳でもなさそうで、そうなると勝手に勘違いして乗り込んできた自分たちの行動の方がある意味恥ずかしい。やがて、ごまかすようにわざとらしく咳払いが聞こえ、一人の女が口を開いた。


「ふ、ふん、いいわよ。仕方ないからもう少しだけ多目に見てあげるわ」
「あ、ありがとうございます!」
「……せいぜい頑張りなさいよ」
「はい! 頑張ります!」


 女たちが去るのを手を振って見送ったなまえは、気合いを入れ直すようにぐっと拳を握ってひとつ頷くと店に向かって歩き出した。そんな背中をふたつの影が見つめていることになまえは気付かない。そうしてその姿が見えなくなると同時に、ひとつの影が口を開いた。


「なまえちゃんと知り合い? ──紅」


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