「ねえ……「普通」ってなんだろね」
「大丈夫です明らかにカカシ先輩は「普通」じゃないので」
「それを言うならお前だってそうでしょうよヤマト」
「僕は先輩よりは「普通」に近いです」
「それでもあの子に言わせれば「普通」じゃないんだから」
「……「普通」ってなんでしょうね」


 遠い目をして呟かれたヤマトの発言にカカシは溜め息を零した。なぜ自分たちは「普通」であることにこんなにも頭を悩ませているのか。忍である以上、「普通」という基準からある程度自分たちが外れているのは認識していた。それでも自分だけは彼女の思う「普通」の枠に収まっていて欲しい、そう思うのはひとえに恋心の成せる技であろう。


「はあ……なまえちゃん」
「キモいです先輩」
「「普通」だよ「普通」! なにオレは恋しちゃいけないの?!」
「今、「普通」って言いました?」
「!」


 唐突に頭上から聞こえてきた声にカカシもヤマトも驚いて顔を上げた。視線の先には首を傾げるひとりの女。心なしか瞳が輝いているのは明らかに「普通」という単語に心躍らされたせいだろう。


「なまえちゃん!」
「あれ、はたけさんとヤマトさんだったんですね。失礼しました帰ります」
「待って待って! なんで顔見ただけで帰っちゃうのさ!」
「え、あー……私の中でいちばん「普通」に縁遠いかと、」
「いやいや「普通」だからね! なまえちゃんの中のオレのイメージってどんななのよ?!」
「え、チートですけど」
「……」
「いくら忍といえど手から電気バチバチとかありえないですよね。あ、もちろん木もですけど」
「……それ以外は「普通」だと思ってるんだけど」
「それ本気ですか?」
「じゃあ聞くけどなまえちゃんの言う「普通」ってどんなの?」


 若干凹みつつ、それでもなおも食い下がるカカシの質問に、少し考える素振りを見せたなまえはしばらくして納得したようにひとつ頷いた。


「「普通」です」
「は?」
「だから、特別なものを持っていないひとってことですよ」


 なまえの発言にカカシとヤマトは思わず顔を見合わせた。言っている意味がさっぱり解らない。


「……?」
「解りませんか」
「うん、ゴメン……」
「うーん私も上手く説明できないんですけど、例えば人間って誰しも特別な何かを持ってると思うんです」
「うん」
「でも私にはその特別な何かは必要ないんです」
「……どういうこと?」
「要するに私の理想とする「普通」なひとなんてどこにもいないってことです」


 満足げに頷くなまえに開いた口がふさがらない。どこにもいないと解っていながら、それを理想としているなまえ。「普通」と言われる人間などこの世にごまんといるというのに彼女にとっては「普通」じゃないというのだ。


「良いところも悪いところも何もない、それが私の求める「普通」なんですよ」


 にっこりと笑うなまえの笑顔には、他人が踏みこむことを許さない確固たる信念が浮かんでいる。そしてこの発言により、ますます「普通」について頭を悩ませる忍たちが眠れない夜を過ごすのであった。


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