「ひとりになりたい」


 そう呟いた途端、私の目の前に音もなく複数の人影が現れた。もはや当たり前になったその光景に思わず溜め息が零れそうになって慌てて飲み込んだのは、ひとえに彼らの纏う殺気のせいに他ならない。囲むように立つ人影はお互い牽制しあっているのか場の緊張感が半端ない。そんな状況をひとり冷めた目で見つめる私は今度こそ大きく溜め息を零し口を開いた。


「なにか……?」
「……ひとりになりたい、そう聞こえたんだけど」
「いけませんか」
「どうして?」
「……」


 理由など簡単だ。常に監視するように私にはりつく視線が煩わしい。それこそまだここに来た当初の嫌疑の視線を受けているほうがマシだと思えるほどに。いつからその視線の意味が違うものへと変化していったのかなんて解らない。けれどもその変化は徐々に私の自由を削っていった。どこにいても絡みつくような視線に追いかけられる息苦しさに、私はとうとう人と接することを諦めたのだ。ようやくできた友も私の置かれている状況を察知するやすぐに私から距離を取った。曰わく「アンタのために死にたくない」のだそうだ。そうして私の周りに人がいなくなっても彼らは私から視線を外さない。里を出ることも考えたが、実行しようとする度に何かしらのアクシデントが発生してはいい加減私も諦めざるを得なかった。


「──聞いてるの?」
「……離してください。はたけカカシさん」
「そんな反抗的な目も嫌いじゃないけど、オレとしてはやっぱり笑って欲しいなあ」
「離して、ください」
「──離す?」
「っ!」


 瞬間、掴まれた手首に鋭い痛みが走り嫌な音が耳に届いた。折れただろう手首が力なくだらりと地面へとうなだれる。浅く息を吐き出しながら自由な左手で脂汗を拭い、痛みに意識が朦朧としながらも、声だけはあげまいと目の前の男を睨む。


「ほら、これでしばらくは離れられないでしょ?」
「……っ、」
「まだ意地を張るなら、左手と足も右手と同じ状態にしてもいいんだよ? その方が好都合だしね」
「……殺せば、いいじゃないですか」
「ん?」
「……私がどうしてひとりになりたいって……言ったと思います……?」
「……」
「もう……もう死にたいと思ったからです。あなたたちを拒めばきっと私を殺してくれる、そう思ったから、」
「なまえちゃん──」


 自分の名を呼ぶ声の柔らかさに思わず肌が粟立った。どこか喜色を含んだ声音に言いようのない嫌悪感がわいてくる。


「それってさ、死ぬ時はオレたちに殺されたいってことだよね──」


 にっこりと微笑んだ男の笑顔に浮かぶのは純粋な喜び。次第に遠のいていく意識の中、私の胸には重苦しい絶望だけが満ちていた。


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