勘弁してくれ──いまだ寒気のする腕をさすりながら切実にそう思うオレは悪くない。誰がなんと言おうと悪くない。突然なんの話だと思うかもしれないが本当にここだけは強調しておきたい。だって、持って生まれた性別なんて神様でもなけりゃどうしようもない話だろ? オレだって出来るなら男として生まれ変わりたかったっつうの──!





 失礼しました、みょうじなまえです。さっきからオレオレ言ってますが生物学上はれっきとした女です。本人まったく納得いってませんが女です。え? なんで納得いってないかって? 実はオレ、前世は男だったからです。あ、頭おかしいとか言わないでそこ。実際オレは前世ではみょうじなまえ(男)という立派とも言えない名前で、男として生きてたんだから。記憶だってちゃんと残ってるしね。けど、ある日不慮の事故で世界とおさらばしたと思ったら、突然視界が明るくなって目を開けたら笑顔で涙ぐむ両親の顔があったんだ。助かったんだと安心したのも束の間、すぐにオレは現実を悟ったね。なんでかって? そりゃあ大の大人ふたりがデレデレの顔して赤ちゃん言葉で話しかけてきてみろ。嫌でも悟るわ。
 でもまあ生まれ変われただけでもめっけもんだし、第二の人生を謳歌するかと思った矢先、オレは地獄に突き落とされた気分になったね。まあこれは……言いにくい話だけど、オレの相棒……いや息子クンが、さ、……なかったんだ。あ、ヤバい泣きそう。慣れ親しんだあのぶらさがる感覚がないだけで人間あそこまで絶望できるんだな。マジ泣きしたよ赤ちゃんだったけど。
 ……コホン、まあ未だに納得できてはないけど、それに関しては諦めの境地に至っている。もう十何年も経ってんだ、いまさらどうにもならないだろう。だけどどうしても……どうしても我慢ならないことがひとつだけあるんだ。それは──




「みょうじ」
「……なに?」
「その、よ……一緒に帰らねえか?」
「……」


 これだ。目の前で若干頬を染めながらオレに声をかけるのは前世では親友、とまではいかないがそれなりに気を許した間柄の男だ。言っておく、あくまでも前世の話だ。今世では友達でもなけりゃ幼なじみでもない、ほとんど関わりのない隣のクラスの男子──それだけの間柄だ。こっちとしては前世の記憶があるだけに鳥肌立ちまくりだというのに、そんな人の気を知ってか知らずか前世で仲良くしてたヤツらはこぞってオレに声をかけてくる。もう止めてくれ。精神的にこれはかなりキツい。


「……みょうじ?」
「だが断る」
「え?」
「ああ?」


 ガラが悪い? そんなもん知るか。こちとら男に好かれたって嬉しくもなんともないんだ。だから頼む、空気読んで金輪際オレの周りをうろつかないでくれ。


「お、お前……」
「……なに」
「まさかのツンデレか」
「……死ね」


 もう嫌だ。こんな人生望んでない。神様かみさま、今からでも遅くありません。どうか目の前のコイツに今すぐ前世の記憶を戻して目を覚まさせてやってください。正直オレ、もう泣く一歩手前なんです解ってください──


 そんなささやかな願いもむなしく、結局半ば強引に手を引っぱられて一緒に帰るハメになった。重ねられた生ぬるい掌にまた鳥肌が立ったが、いくら振り解こうとしても離れなかった。くそう悔しい。帰ったら思いっきり手洗ってやるんだからなチクショウ!


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