──お父さんお母さん、なぜ私は今、知らない男子たちに囲まれているのでしょうか。そして善良女子高生なはずの私に注がれる男子たちの視線に殺気が含まれているような気がするのはなぜなのでしょうか。鳥肌と震えが止まらないので今すぐあなたがたの待つ家に帰りたいです切実に。


「……みょうじなまえ、だな?」
「……そう、だけど」


 私がみょうじなまえなのは変えようのない事実なので肯定の意味を込めて頷く。するとどうだろう。私を囲んでいる男子たちから一様に大きな溜め息が漏れた。


「なあ、マジで……? シカマル趣味悪くなったんじゃねえの」
「言うなキバ。皆心は同じだ」
「まあまあ。シカマルは見た目重視じゃないんだよきっと」
「そ、そうだってばよ! シカマルの目にとまるだけの何かがあるに決まってるってばよ」
「いや、そうだとしてもよー……」


 訳が解らない私を放置して何やら小声で話し始めた男子たちだが、私の頭上で話すのは止めていただきたい。丸聞こえもいいところだ。しかも残念そうな視線を時折私へと向けながら話すから、否が応にも話題は自分のことだと解ってしまうじゃないか。泣くぞこの野郎。よし決めた無視して帰ろう。いつまでもこんなのに付き合うより夕方再放送のアニメ観てる方が有意義な時間を過ごせるに違いないと、ちらりと腕時計で時間を確認した瞬間だった。


「いっ! いだだだっ!」


 強烈な痛みが腕に走ったかと思うと、私の腕時計をした左腕が背中側に捻り上げられていた。普段そんなありえない方向に曲げないうえ、手首を掴む誰かの腕の力が強すぎて動くことすらままならない。理不尽に与えられた痛みはとうとう私の我慢の限界を超えた。


「ちょっと! 何すんの痛い!」
「……」
「痛いっつってんの離せ!」
「……今、時間を気にしただろう」
「っ……、帰りたいんだよ悪いかコノヤロー! だいたい何の用だっつうの! 寄ってたかっていいかげんウザいんだよ女子かお前ら!」
「……」


 言いたいことを言って、はあはあと息を切らして俯く。今日は厄日だったんだ。そう思わないとやっていられない。そういえば朝の早起き占いだって「今日は外出しないほうが身のためだゾ☆」って言ってた。根が真面目な女だから真に受けて学校サボるなんてアホな真似はしなかったけど、こんなことなら休んでやればよかった。


「……悪かった」


 いまさら謝られたって遅い。解放された腕はまだ痛かったけど、もうどうでもよかった。俯いたままの私の頭上から焦った誰かの声が聞こえたけど、耳を傾ける気にもなれなかった。


「……もう二度と私に話しかけんなクソ野郎どもが」


 唾を吐く勢いで告げると同時に私は走り出した。ああ胸糞悪い。明日は絶対学校休んでやる。



□■



「……ど、どどど、どーすんだよシノ!」
「ヤバいって! オレら完璧嫌われたってばよ!」
「落ち着けキバ、ナルト。オレたちがあの女に嫌われたところで心配ない。なぜなら、シカマルを嫌う女などこの世に存在しないからだ」
「そ、それはそうかもしれないけどよお……」
「……けど、あの子のこと怒らせたシノたちは確実にシカマルに嫌われちゃうんだろうねえ」
「「「!!」」」
「シカマルの恋が成就する代わりに友達の関係も終わり、か……切ないよねえ」
「……前言撤回だ。ナルト、キバ、明日謝りに行くぞ」
「了解!」


 私が去った後、そんな会話が繰り広げられているとも知らず、無邪気な心を忘れない私は一晩寝てすっかりヤツらのことなど忘れていた。そう、翌日からの騒動に自分が巻き込まれるなど、この時の私は夢にも思っていなかったのだった。


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