<秋道&奈良の場合>



「ボクたち、どこかで会ったことある気がするんだよね」
「き、気のせい、デス……」


 目の前でニコニコと笑うぽっちゃりくんに内心ギクリとしたみょうじなまえですこんにちは。そして目の前で笑うこの男は前世ではオレの癒やしとも言えた愛すべきぽっちゃりくん、秋道チョウジだ。今世でも変わらずお菓子好きなようで、ポテチのぎっしり詰まった袋を下げている。
 ああ……チョウジよ、お前に再会できたのは素直に嬉しい。けど、けどよ……!


「どうしたの?」
「……アンタの背中に背後霊が、」
「背後霊じゃねえ! 奈良シカマルだ」
「立派な背後霊と化してたよ。それと名前なんか聞いてないから」
「覚えろ」
「だか断る」
「ふざけんな」
「アンタがふざけんな」
「まあまあ二人とも」


 苦笑いしたチョウジに仲裁されてというのもあったが、正直なところ奈良の鋭い視線が怖かったので内心安堵して顔を逸らした。ああ怖い。前世でもなに考えてるか解んなかったが今世でもそれは同じらしい。チョウジとは大違いだ。


「でも本当に会ったことない? なんか懐かしい感じがするんだよね」
「新手のナンパっすか」
「チョウジお前ェ!」
「シカマルは黙っててよ、話が進まないから」
「……はい」


 うわあ奈良のヤツ、チョウジに頭上がらないのか。前世じゃ考えられないポジションだなこりゃ。まあつるんでるのは相変わらずのようだし、それはそれでほほえましいと言っておこうか。それにしても……ブフッ、やっぱ笑える。


「それでさ、会ったことあるよね」


 おっと、今度は断定か。意外と食い下がるなチョウジ。お前いつからそんなキャラに、とか考えてたらチョウジがお菓子の入った袋を突然奈良に押し付けて振り返った。その顔は相変わらずの笑顔だというのになぜか背筋を悪寒と冷や汗が走った。なんだよ怖いよチョウジ!


「なまえちゃん、」
「は、はい……」
「とりあえず、友達になろっか」
「……は?」
「だってボクの本能が友達から始めろって……逃がしちゃダメだって言ってる」
「……っ、」
「ね、いいよね?」


 本能ってなんだよ本能って! それならオレだって本能に従って今すぐ走って逃げ出したいわ! オレは獲物か? 草食動物か? 正直チョウジのキャラが違いすぎて引く。さりげなく名前呼びするチャラ男ばりのスキルなんてどこで手に入れたんだ。あの頃のお前に戻ってくれチョウジ! そして水を差すようで悪いが勝手に手を握るのは止めてくれ。オレのシャツの下はもはや鳥肌だらけだ。


「いいよね、なまえちゃん?」
「こ、」
「あ。うん、って言わなかったらこのままキスしちゃうからね」
「チョウジィィィィ!」
「シカマルうるさい。さ、どうする?」


 ああ神様。あの人畜無害なオレの癒やしを返してください。
 再会の喜びなんてどこへやら、今は変わってしまった友に半端ない衝撃を受けたオレはいまだ握られるチョウジの手を振り解こうと必死、いや死に物ぐるいだ。キスなんてされたら死ぬ、けど友達にもなりたくない! 昔のままのお前ならともかく、こんなチャラ男は嫌だ!


「素直に頷けばいいのに、さ」
「!」
「ごちそうさま」
「チョウジィィィィ!」
「うるさいよシカマル」
「すんませんした、って……みょうじ、大丈夫か?」


 奈良の声がどこか遠く聞こえる。しかし今はそんなものに構っている余裕なんてない。頬に残る生温くて柔らかい感触は明らかに、明らかに……!
 一瞬後、ぞわぞわと肌が総毛立ち、オレはこの人生で初めて人類は頭の先から鳥肌が立つということを知ったのだった。


 もうお前らはオレの敵だ。チャラ男許すまじ。とりあえず帰ったら消毒、しかも徹底的にやってやる。
 今度会ったら……? もちろん全力で逃げてやるんだからなチクショウ!


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