「ねえ、なまえ知らない?」 花がそう切り出したのはなまえが奈良家から飛び出して二週間後のことだった。なまえが任務に明け暮れているのは知っている花だったが、それでも三日に一回はなまえの顔を見ていたことに対する違和感。そんな花の呟きにシカマルは何も答えられない。シカマルもまた花同様にあの日からなまえを見ていなかったからだ。 「なまえならしばらく休暇だとよ」 「キバ」 「なんで……? どこか怪我、とか……?」 「あー……いや、怪我はしてねえらしい」 「じゃあなんで……」 「働き過ぎで無理やり休暇取らされたんだと」 「っ、」 キバの言葉にシカマルは思わず眉根を寄せた。あの夜、慣れていないだろう酒に酔ったなまえの姿はそう言われればどこか疲労しているようにも見えた。だがなまえが就く任務はすべてなまえが自ら志願しているのだと以前花に聞いたことがある。それなのにここにきて突然の休暇。普段のなまえを知る者からすればそれはひどく不自然に思えた。 「ホントに無理やり取らされたのか?」 「……シカマル?」 「……どういう意味だよ」 シカマルの発言に今度は逆にキバが眉根を寄せる。なまえが花の任務を代わりにこなしていることなど周知の事実だ。知らないのはきっと誰よりもこの事実を知るべきであろう花とシカマルだけ。この二人にだけは知られたくないというなまえの意を汲んだ結果、もはやそれを口にしないことが忍の間では暗黙のルールとなっている。それほどまでに必死でなまえは花を守っていた。そしてそれを知っているからこそ、キバはどこか疑うようなシカマルの口調に無性に腹が立った。だがシカマルはそんなキバに気付かない。ただ純粋に己の疑問をそのまま言葉にする。 「別に深い意味はねえよ。ただ任務が嫌になったのかと思っただけだ」 「……なにも知らねえくせに、」 「あ?」 思わずシカマルを殴りたい衝動に駆られてキバはぐっと拳を握った。シカマルは何も知らない──だからこその発言だがキバはそれが許せなかった。仮になまえが本当に任務が嫌になったのだとしてもそれは当然のことだとキバは思う。誰のためでもない、ただ花のために就いている任務。それを下忍から中忍になった今でもなまえはただの一度も休むことなくこなしてきたのだ。ここにきてそのしわ寄せが来てもなんらおかしくはない。 「……花、火影さまがお呼びだ」 「え!」 「シノ」 背後から唐突に聞こえてきた声にキバの思考は中断された。振り向けばそこには相変わらずの無表情で立つシノの姿。それでもその姿にどこか安堵したのはきっと、感情のままに真実を告げかねない自分を理解していたからだろう。 「任務かな?」 「おそらくな」 「わかった。じゃあシカマル、」 「送ってく」 「……相変わらず花には甘いなシカマル」 「うるせえよ」 去っていく花とシカマルの背中を見送って、シノはキバの肩に手を置く。いまだ拳を握りしめるキバは、怒っているのか悲しんでいるのか、なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。 「仕方ないだろうキバ」 「解ってる、解ってんだよ……! それでも、」 「告げてしまえばそれで何もかもが終わってしまう。なまえはそんなことを望んではいない」 「っ、解ってんよ!」 「……ならいい。それよりなまえのところへ行くぞ」 「ああ……」 数歩進んだところでキバは歩みを止めて振り返る。花とシカマルの姿はすでに見えなくなっており、なまえに対するふたりの思いがその程度のものだと突きつけられたようで再び拳を握りしめて唇をぐっと噛みしめたなら、キバは遠ざかる二人に背を向けた。 . |