「は、あっ……いっ、か、く……」



 私と彼以外、誰もいない空間。
 世間で「恋人」と呼ばれる関係の男女が密室で二人きり――となれば、そういう雰囲気になるのは至極当然のことで、私は先刻から、荒々しく私の躯を貪る一角の唇や指の動きに、ただひたすら喘ぎ続けていた。
 一角はいつでも自分の気の向いた時にフラリと私の目の前に現れ、自分の欲望の赴くままに私の躯を抱く。
 それはまるで餌を求める野良猫のようで――自分の欲を満足させるとあっという間に身を翻して去っていく。





 餌……か、
 そう思った途端、私の全身は総毛立ち、瞼の裏側がじん、と熱くなってきて。
 その熱が涙の雫となって零れ落ちるその前に、私はそっと目を閉じた――










「……どうした?」



 不意に鼓膜に届いたのは、いつもと違ってひどく優しい響きを持った一角の声で。
 心臓が締め付けられるような痛みを感じながら私は首を横に振った。



「……ん、でも……ない」



 なんでもないはずがない。
 現に私の声はこんなにも震え、先刻から閉じている瞼は更に熱を持ち始めて。
 目を開ければきっと、私は私自身を止められないに違いない。










「目ぇ開けろ……」



 しばらくの沈黙の後、ぽつり、あきれたような一角の声が頭上から響き、私はおそるおそる目を開けた。
 そこにはいつものギラギラした野獣のような目ではなく、慈しむような、それでいて真剣な眼差しを向けている一人の男がいた――



「いっ……かく」

「……下らねえこと、考えてんじゃねぇ」



 再び揺らされ始めた私の躯は、一角のひとことでまた熱を持ち始めて。
 再び瞼を閉じた私は、一角によってもたらされる快楽に身を任せた――





野良猫の愛しかた





 気持ちが繋がってりゃ、周りなんて関係ねぇだろが−




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