「──終わりに、しましょう?」



 ぴくり。私の部屋の扉を開きかけた背中が一瞬。そう、一瞬だけ小さく揺れた。
 ついさっきまで互いの熱を貪るように合わせていた躯は、その熱情を引き摺っているかのように熱いのに。
 今もまだ、帰らないで欲しいと縋りつきたい衝動に駆られるのに。
 悲しいかな、想いとは裏腹に、私は目の前の背中を冷めた目で見つめるしかなかった。



「……何故だい?」



 振り向くことなく淡々と問うた口調には愛情なんてものはひとかけらもこもってはいない。解っていたのに、それでも僅かな希望に縋りついて始めてしまった今の関係。
 でも今日、見てしまった。花のようにふわりと笑うあのひとを見守るように見つめる彼の眼差し。
 切なげに顔を歪ませた彼を見つめる私の顔も、きっと彼と同じように歪んでいたに違いない。



「……飽きた、の」



 こんなくだらない不毛な関係、長く続けたところで私の負けは見えている。だったら、せめて最期ぐらいは私の手で幕を引きたかった。
 ぽつり。吐き捨てるように呟いたのは、せめてもの私の強がり。震える声を悟られまいと一音ずつはっきりと、まるで自分に言い聞かせるように──



「本当に……いいのかい?」

「っ、」



 一瞬。その声に彼の感情が滲み出たような気がして思わず息を飲みこんだ。
 相変わらず背中を向けたままの彼は、一体今どんな気持ちで問うたのか。



「……私から誘っておいてなんだけど、最初から長く続ける気なんてなかったし」

「……」

「いつまでも遊んでなんていられないし、それに──」

「もういいよ」

「っ、……」



 そのまま。振り返ることなく出て行った背中。開け放たれた扉の向こう、彼の背中がどんどん小さくなっていくのを、私はただ見つめることしかできない。
 ぺたり。扉の前に座り込んでそっと目を瞑ったなら、温かいものがひとしずく。私の頬を伝っていった──





こころから、してた





 だから、さよなら──




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