ざああ。風呂でも入ってるんやろか。静かに体を滑り込ませた彼女の自室に彼女の姿はなくて。
 代わりに聞こえるんは水音と機嫌の良さそうな彼女の鼻歌。





 ──ボクと彼女とは所謂幼なじみっちゅう間柄で。
 なんでも話せる友達としか見てくれへん彼女に、今日こそはボクのことを意識させたんねん、と意気込んではきたものの。
 きゅ。止まった水音とともにボクの脈拍が急激に高鳴る。息が詰まりそう、てこんな状態のことを言うんやろな。



「っ、ギン……?」



 ぽたぽた。濡れた髪から滴る滴を拭いもせず、心底驚いた表情を浮かべた彼女の姿がそこにあって。
 すく。すぐさま踵を返した彼女の背中を追って、ボクは夢中で腕を伸ばした──





「は、離し……」

「嫌や」



 捕まえた彼女の背中。薄い布一枚だけがボクと彼女を隔てる境界線で。
 つつ。項に舌を這わせながら、指をその境界線に少しずつ踏み込ませていくとぴくり、緊張からか彼女の身体が揺れた。



「ボクんこと……嫌い?」



 はむ。耳朶にそっと歯を立てて、どくどくと脈打つ胸にそっと手を添えて柔らかな感触と彼女の香りにほう、息を吐けば。



「は……っ、あ…嫌い……じゃ、」



 ぶるり。湯上がりで火照った彼女の肌が鮮やかに艶めいて、ボクの視覚を痛いくらいに刺激する。



「ほんなら……好き、ていうて?」

「ん……っ、はあ……っ、ギ」



 くちゅ。もう何の意味も成さなくなった境界線を放り投げて──彼女からの返事を聞く前に、ボクはその唇を塞いでいた──





 好き、ていうて?





 見たないんや。他の男の前で微笑むキミを──こんな風にしか伝えられへんボクを許してな?





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