深夜2時、ようやく任務が終わったオレは家へと急いでいた。



「チッ……くそ、今日もダメか……?」



 気配を消して音をたてないよう家に忍び込み、そっと寝室のドアを開けたオレの目に飛び込んできたのは。オレの嫁さん、なまえの回りをガッチリ囲んで眠るガキどもの姿。
 なまえとは結婚してもう五年、三人のガキにも恵まれてそれなりに安定した、まあ世間一般で言う『幸せな家庭』ってやつを築いている。…が、このガキどもが最近のオレの悩みのタネだ。
 上は三歳を筆頭に、一つずつしか年の違わねえ(つまり年子な)このガキどもは、寝る時は三人まとめて子供用の布団に寝かせんのに、夜中になると布団を抜け出してなまえの布団に潜り込んで来やがる。
 まあ、まだまだ小せえし母親にくっついて寝たい気持ちも分かんだけどよ、こう毎晩だと、オレが我慢ならねえんだよな……。



 オレはでっかい溜め息を吐くと、なまえの枕元に近付いた。



「なまえ……、おい……」



 ガキどもが起きないよう細心の注意を払ってなまえに声をかけてみる。



「ん……シカ……?」

「しっ、動くな」



 体を起こしかけたなまえの肩を慌てて押さえて、オレがそう言えば。



「……ああ、また……?」



 目だけ左右に動かしたなまえが、呆れたように溜め息を吐いた――




 数分後、なんとかガキどもに気付かれずに布団から脱出したなまえとオレは、リビングで茶を啜っていた。



「悪ぃな、起こしちまって」

「ううん、大丈夫だよ? シカマルこそ、疲れてるんじゃないの?」



 湯呑みを両手で挟んで笑顔でそう問い掛けるなまえの顔には、誰が見てもハッキリわかるくらいのクマが出来ていて。オレの下らねえ感情のせいで、なまえの貴重な睡眠時間を削っちまった事にオレは今更ながら後悔した。



「なまえ……」

「ん……?」

「ありがとな、毎日……あいつらだって、まだまだ手ぇかかんだろ?」



 罪悪感からオレがガラにもなく礼を言えば、なまえは不思議そうなツラして。



「なんでお礼? あたしシカマルの奥さんなんだよ?」



 ――なんて言うもんだから、オレの中にさっきまであったガキどもに対するみっともねえ感情なんか、あっという間に消えちまって。いまだに不思議そうなツラをしてるなまえが、ただ愛しくて。思いっ切り抱き締めたい衝動に駆られて、思わず手を伸ばした瞬間――



「ママぁ……、ママッ!? うわああんっ!!」



 寝室から聞こえてきたなまえを捜すくそガキの声。



 ……タイミング良過ぎだろが。



「はいはい、ここにいるからね?」



 寝室から出てきた一人を抱っこして優しく背中を撫でるなまえの姿に、やっぱりガキどもになまえを取られたみてえで、正直面白くねえけど。
 しょうがねえ、今だけはお前らに貸しといてやるよ。これから先、嫌ってほどオレとなまえは一緒にいるんだしな?
 それになんだかんだ言ったって、お前らはオレとなまえとの大事なガキなんだからよ。





 ――なんて、余裕ぶっこいた思考を巡らせていたオレの目の前で。



「ママ好き」



 ちゅ



「……っ!!」



 怒りに震える拳を握り締めて、これから先どんだけ続くか分からねえ、なまえの愛情争奪戦を考えてオレは大きな溜め息を吐いた――



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