「やっぱりキバくんは肉食系よねー!」

「うんうん、わかる解るー!」



 楽しそうに話すクラスメイトたちの会話がぼんやりと耳に入る。犬塚くんは肉食系。ああ確かに彼は野性的だもんなあ。例えるならば雄々しいライオンあたりか。ギラギラした鋭い眼差しと物怖じしない態度はいかにも肉食系と呼ぶに相応しい。



「じゃあさ、油女くんは?」

「うーん……油女くんは草食系じゃない? 格好良いけどガツガツしてないし、害がなさそうだよね」



 害がない──聞こえてきた言葉に思わず目を見開いてしまう。害がない? 草食、系? 誰が?



 何故油女くんが彼女たちの話題に出るのか。そんなの簡単。普段から無口な彼は周りから見たらミステリアスそのものらしい。加えてそのルックスが(黒髪に眼鏡なんて、もはや凶器だ)油女くんの雰囲気を更にミステリアスなものにしていた。そして知らないとは恐ろしいもので、油女くんのことを遠目でしか見ることのなかったあの頃の私は、彼のことを密かに格好良いとさえ思っていたのだ。今はそんなこと、微塵も思わなくなったけれど。
 そんなことを考えながら次の授業の準備をしていたら唐突に背中を軽くつつかれた。



「なまえ、シノいるか?」

「あれ、シカマルどうしたの」



 振り向けばそこに立っていたのはちょんまげがトレードマークの我が幼なじみ、奈良シカマル。次は移動教室なのか、小脇にノートとペンケースを挟んで両手をポケットに突っ込んで相変わらずだるそうだ。うん、いつもながらやる気ないよね。



「次、化学なんだけどよ、教科書忘れたから借りにきた」

「私ので良ければ貸そうか?」

「ああ、悪ィな」

「別にいいよ。でも五時間目までに返してね」

「おう」



 サンキューな。教科書を持つ手を上げるシカマルの背中を見送る。ちょんまげが歩く度にゆらゆら揺れて、なんだか可愛いぞ、うん。
 そういえばシカマルと話したのも久しぶりかもしれないなあ。家が近いとはいえ、お互いお年頃なせいで昔みたいに遊べないし、何よりあんなやる気なさげなのにヤツは意外とモテるからなあ。小さい頃から一緒にいるせいか私にはさっぱり理解できないんだけどね。



「おい」



 立ち尽くしたまま、ぼんやり考えてた頭が後ろからかけられた声に瞬時に引き戻された。こ、ここここ、この声は……!
 振り向かなくても声の主が解るなんて私凄くないか? そして毎度毎度体が強張るのはもはや条件反射と言ってもいいだろう。ああ、切実に振り向きたくないよ!



「名字」



 なんなのもう。そうやって低い声だせば私が振り向くとでも思ってるのかい油女くん。今日は、今日こそは耐えてみせるんだか、ら、ね……?
 ぷるぷると今にも震えそうな唇をぎゅっと噛みしめて、油女くんという存在と背中で闘う私。というか、どう見ても私が油女くんのこと無視してるようにしか見えない、よね……?



「……授業、始まるぞ」

「……う、ん」



 盛大に溜め息を吐いてそれだけ言った油女くんの気配が離れていくのを感じてホッと安堵の息を吐いた。
 勝っ、た……? 私、あの油女くんに勝った!?



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