とてつもなく背中に冷や汗が流れるのを感じて思わず肩を竦めた。いつものクラス、いつもの席、なのにどうしても拭えない緊張感。原因はわかっている。わかってはいるけどチキンな私にいったい何が出来るっていうんだ。未だ隣の席から注がれる、油女くんの強く真っ直ぐな視線にツンと熱いものが込み上げた──





 はあ。ようやく訪れた開放的な放課後に安堵の息を吐く。部活の準備をする人、嫌々ながら掃除をする人たちの雑多な声にさっきまで張り詰めていた緊張がゆるゆると解けていく。
 帰ろう。今日は部活はないはずだし、あったとしても部員は私を含めてたった三人の細々とした部活だ。体調不良で帰ったと後から弁解すればきっと笑って許してくれるだろうし。鞄に教科書を詰めながらそんなことを考えてた私の前に不意に影が落ち、何気なく顔を上げた瞬間血の気が引いた。うん、なんていうか悲鳴を上げなかった私を誰か褒めてくれ、というかこの場合上げられなかったと言ったほうが正しいのか。だって目の前に立っているのはさっきの強烈な視線の主、油女くんだったのだから。
 石像よろしく硬直した私を直視したまま、無言で立つ油女くんの視線が痛い。無口な人の眼力って、もしかしたら普段喋らない分まで無駄に力がこもっているんじゃないだろうか。とにかく痛い。



「名字」

「は、はいいっ!?」



 たっぷり五分は経っただろうか。緊張から胃の辺りがじくじく痛みだして別の意味で冷や汗をかき始めた私の名を油女くんが呼んだ。突然呼ばれたことで思わず肩が竦み声が裏返ったのは仕方ないだろう。ああ心臓に悪い。



「……部活は、」

「あ、ああ! そうだ部活行かなくちゃ!」



 ナイスだ油女くん。さっきまでサボろうと思ってたことなんか忘れて慌てて席を立つ。というか実際この状況から脱することができたなら、嫌いな数学の授業でさえ喜んで受けたに違いない。でもとりあえず部活はやっぱりサボろう。教室を飛び出してから数メートル、部室へ向かっていた足はすぐに生徒玄関へと方向転換された。そう、この三分後、おそろしく後悔することになるとも知らずに──




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