一本の樹の上で気配を消して、オレは足下のふたりを眺めていた。 任務帰りの朝、自宅に帰ろうと歩いていたら良く知ったチャクラを感じたものだから。しかも違う気配、柔らかい感じからして彼女だと判断したオレは思わず身を隠すために樹に飛び移って今に至る。 別に羨ましいとか、ふたりの仲の良さを妬んでとかじゃなくて。ただ、ふたりが一緒にいると周りまでなんだかほわほわと和むのが不思議だっただけ。うん、ただそれだけ。 「良いお天気ね?」 「うん。気持ちいいね」 長年寄り添った老夫婦のような会話には甘さもなにもない。なのにふたりの間に流れる空気は穏やかで優しくて。独り身の長いオレとしては、認めたくないけどやっぱり少し羨ましい。 そんな複雑な思いを抱きつつ、ふたりを見ていたら思いがけない会話が耳に飛び込んできて思わず聞き耳を立てた。 「昨日もカカシ先輩がさ──」 え。なに? オレの話までしてんのアイツ? そんなの聞いたってつまんないだけじゃないの? オレのそんな思いを余所に、隣の彼女は柔らかい笑みを浮かべて聞き終わった後、白い歯を微かにのぞかせて笑って応えた。 「テンゾウはカカシさんと本当に仲がいいのね? 少し羨ましいな……」 どきん。心臓を直撃したのは彼女の笑顔か、それとも声か。いずれにせよ、この瞬間にオレは後輩の彼女にいとも簡単に心を奪われた愚かな男と成り下がっていた―― けれど、それはすぐに沈静化を迎えた。だってオレがここから見ているとも知らずに、ごく自然に寄り添ったふたり。そっと繋がれた手にふたりの愛情の深さを嫌というほど見せつけられる。 「キス……していいかい?」 「あ……は、はい」 それ以上は見たくないと、オレは急いでその場を離れたけれど。少なくともあのふたりの間に割り込むのは絶対に不可能だ──そんな気がした。 奈落のそこへ落とされた 「先輩ダメですよ? 覗き見なんて恥ずかしい真似は」 「オレが見てるの知っててちゅーしたんでしょ……?」 「バレました? いくらボクが温和でも、彼女までは譲れませんからね」 「……いい性格してるよね、お前」 「先輩には負けますよ」 |