「暑い……」



 蝉の声がやたらうるさく聞こえてくる夏の午後。茹だるような夏の暑気は開け放された窓から入り込んで、容赦なく体中から水分を搾り取っていく。ようやく取れた休暇ーー溜まった家事を午前中のうちにやっつけて、午後から優雅に読書でもしようかと思ってたのに。こうも暑いと、何をする気にもなれなくて、ごろり、リビングに寝転んだ。





 ジーワ、ジーワ――





 相変わらずうるさい蝉の鳴き声を聞きながら、ぼんやり白い天井を見つめる。





 カカシ、今日も任務かな――





 きっと今頃、あの暑苦しいいつものスタイルで任務をこなしているであろう愛しい人の姿が浮かぶ。いつも涼し気な顔の彼が、この暑さでげんなりしているかも――そう思うと少し可笑しくて。くすり。誰もいない部屋の中、自分の声だけが小さく響いた――





 サアア――





 窓から入る風の強さに目を開けると、午前中に干した洗濯物が風に煽られてはためいていて。





 あー……洗濯物、取り込まなきゃ……





 ベランダから見える空はさっきまでの強い日差しが嘘のようにどんよりと曇っていて、灰色がかったその色は私を急に不安にさせる。



「やだ…」



 こんな空の日は、かなりの確率をもって、この世で私がいちばん苦手としているものがくる。そんな嫌な予感に私の精神はどうしようもないほどに乱れて。慌てて洗濯物を取り込んだなら、窓を閉め、カーテンすらも引いて。何も見えない、何も聞こえない、そうひたすら自分に言い聞かせてタオルケットを頭から被り、ぎゅ、強く目を瞑った――








「……なまえ?」



 どれだけそうしていたのだろう、被っていたタオルケットをふわり、捲られるまで気付かなかった愛しい彼の優しい声。



「カ、カカシぃ……」



 その慈しむような眼差しに、じわり、暖かいものが浮かんできて。差し伸べられた広い腕へ、縋りつくように飛び込んだ――









「……なまえのことだから、多分こうなってるのは予想してたけど――」



 遅くなってごめんね? そういってくしゃり、頭を撫でたカカシの大きな掌から伝わる体温は、不安定だった私の精神にじんわり染み込んできて。



「ううん、来てくれて……嬉しい」



 ぎゅ、更にカカシの体温を求めるように、まわした腕にそっと力を込めた――











「なんにも気にならないくらい……愛して、あげる」



 耳元で囁かれた彼の声。それは、甘い響きをもって私の鼓膜へするり、入り込んできて。彼の息遣い、彼の体温、彼の与えてくれるひとつひとつの刺激に――




 私は一晩中、翻弄され続けた――





あめあめふれふれ





 もっと君と、触れ合っていたいから――





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