さああ。その音に顔を窓に向けると透明な雫がいくつもぶつかっては弾けていくのが視界に入った。しまった。朝の天気予報、お天気お姉さんが傘を忘れないようににこやかに笑いながら伝えていたのを今更思い出した。
 癖の強い前髪を整えているうちに朝の貴重な時間はあっという間に過ぎ、玄関を開けた頃には天気予報のことなんてきれいさっばり脳内から飛んでいた。



 きらい。嫌いだ。雨なんて。特にこのいつまで続くか解らない梅雨時の雨が。



 くたり。湿気のせいですっかり波を描いた前髪を摘みながら溜め息が零れた。



「しょうがない……もう帰るだけだし」



 はあ。憂鬱な気分のまま生徒玄関で靴を履き替えて。止む気配のない雨を少しの間眺めてから、ずぶ濡れになる覚悟を決めて一歩踏み出そうとした瞬間。



「おい」



 くい。襟首を掴まれ地に着くはずの片足が宙に泳いだ。と同時に体は反動でバランスを崩し、背後にいた誰かの胸へと背中を預ける形になっていた。



「な、奈良……」

「傘、ねえの?」



 振り向いた先、呆れたように見下ろすクラスメイトと目が合った。



「忘れた」

「マジでか。天気予報見なかったのかよ」

「見た」

「はあ? 見たのになんで忘れんだよ」

「聞かないでよ。さっき反省したとこなんだから」

「なんだそりゃ」



 くつくつ。喉の奥で低く笑う男がなんだか無性にムカついて。天気予報が頭から抜け落ちるくらい身だしなみに気を遣う乙女心なんて、こいつには絶対理解できないんだろうな──そう思ったら少し切なくなった。



「ほらよ」

「……?」

「傘、入ってけば?」

「……別に、」

「……髪、濡れたくねえんだろ?」

「っ!」



 驚いた。まるで自分の心を見透かされたようで──いや、なによりこいつに気付かれてたことに。目を見開き、なにも言えないまま口をパクパクさせる私の顔が可笑しかったのか、今度は盛大に吹き出されて。



「金魚みてえ……顔赤いし?」

「う……っ、うるさい!」

「へいへい。ほら帰んぞ」



 差し出された傘。ぷう、頬を膨らませて並んで歩き出す。



 雨は嫌いだけど、こうして同じ時間を共有できるのは悪くないな──



 ちらり。隣の男の横顔を盗み見ながらそう思ったのはこいつには絶対に内緒──





あめひ。





 ばーか。んなもん、とっくに気付いてるに決まってんだろが。 つかお前こそ、いつになったら気付くんだよ――?




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