――コイツはいつだって、そういうヤツだ。隣で呑気に鼻歌なんか歌って歩く金髪が今日はやたら憎たらしく見える。



「……んな睨まなくたっていいってばよ」



 シカマルってば相変わらず目つき悪いんだからよ? 両手の人差し指で自分のこめかみを上に引っ張り上げてニシシ、人懐っこい笑顔を向けたナルトに思わず溜め息が出る。



「お前……何のための小隊か分かってんのか? 一時の感情に流されて勝手に突っ走りやがって……」

「う、うるせえってばよ! 任務は成功したし、文句ないってばよ!?」

「ばーか、それに振り回されるこっちの身にもなれっつうの」



 な、なまえ? 同意を求めるように向けた視線の先、任務で薄汚れているにもかかわらずいつものように柔らかな微笑みを浮かべたなまえが小さく笑う。



「仕方ないわよシカマル、それがナルトなんだもの」



 これだ。なまえのヤツもいつもいつも、なんでもかんでもその一言で片付けちまう。溜め息を吐いた俺とは正反対にナルトは嬉しそうに目を輝かせて。



「さっすがなまえだってばよ! よしっ、今日は一楽奢ってやるってばよ」



 そういって馴れ馴れしく名字の肩に手を置いて笑うナルトに、俺はやっぱり苛立ちを隠せない。けれどそうやって、誰の心にもすんなりと入り込んでいけるナルトをただ、羨ましく思った――



 結局、俺はただの中忍で。火影になるなんて野望もなければ、こうして隊長として任務に出ることすら億劫で。だからこそ効率のいい作戦とフォーメーションを考えてるっつうのに、ナルトと組むと必ずと言っていいほどそれは何の意味も成さなくなる。





 報告書を提出した帰り道、未だ消化できていない苛立ちはぐるぐると俺の脳内に渦巻いたまま。誰もかれも俺のいうことを聞いてりゃいい、なんて思わねえけど、少しくらい聞いてくれてもいいんじゃねえ? 別に自分の立場がどうのってんじゃねえけど、隊員を守るのも隊長の仕事なんだからよ。



「楽じゃねえよなあ……」



空に浮かんだ月を見上げて、しみじみと呟いた。






「シカマル……?」



 背後からかけられた声に振り返れば、既に一度帰宅したのだろう、着替えたなまえが微笑んで立っていた。



「おう、……これから一楽か?」

「うん、シカマルは?」

「……帰るわ」



 じゃあ、そういって軽く手を振って歩き出そうとした途端、くん、引っ張られたベストの裾。



「……なんだよ?」

「うん……お疲れ、さま」

「!」



 驚いた。まるで今の俺の心情を読み取ったようななまえの言葉。まさか、そう思いつつも心臓がバクバクする。



「……私、ナルトのこともシカマルのことも羨ましいよ……」

「なまえ……?」

「ナルトが後先考えないで突っ込んでいくのは……きっと隊長がシカマルだから」

「……なんだ、そりゃ」

「それだけシカマルのこと信頼してるのよ……やり方は違っても、ふたりとも根底にある思いは同じだもの」



 穏やかに話すなまえの言葉は、さっきまでの俺の苛立ちを綺麗さっぱり流してくれるほど優しくて。こうやって人のことを気遣うことのできるなまえもまた、俺にとっては羨望の対象になってるってこと、きっとなまえは知らねえんだろうな――





嫉妬と羨望





 自分にねえものに焦るこたあねえ。世の中、ちゃんと補い合うように出来ているもんだ――




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