「なまえ? どうした」

「……シカマル」

「悪い、返しにくんの忘れてた」

「……死ね」



 ぐったりと机に突っ伏したまま、やっと教科書を返しに来た幼なじみをぐっと睨みつける。すべてコイツのせいだ。いつも用意周到なくせに今日に限って忘れ物なんかするから、私がこんな目に合うんだ。くそう、ケーキは1ホールに格上げしてやる!



「んな怒んなよ? いつものケーキだろ」

「……ホール買いだからね」

「は、なんで?!」



 うるさい。小さいこと言わずに黙ってケーキ買ってこい。こっちはそれくらいしてもらわないと収まらないんだ。
 頑として譲らない私の怒りっぷりにシカマルが大きく溜め息を吐いた。よしよし、やっと諦めたか。



「名字」



 びくり、体が強張った。背中にかかった楽しげな色を含んだ声は言わずもがな、さっきとんでもない条件を突きつけてきた油女くん。
 どうしよう。油女くんとふたりだけならともかく、目の前の幼なじみにあの条件を知られてしまったら完全に羞恥で死ねる。いや、油女くんのことだからシカマルがいるこのタイミングを狙って声をかけてきたに違いない。そんなに私を弄るのが楽しいのか、この真性ドエス王子が!



「……どうした、なまえ?」

「あ、ううん何でもな、」

「名字」



 あああ、もう! だからそんな低い声で威圧しないでよ。解ってる、解ってますから! ほらシカマルが変な顔してるじゃないか。



「な、なに、かな……? シ、シノく、ん……」



 言った。とうとう言ってしまったよ悪魔の呪文を! あああ、そんな驚かないでよシカマル。アンタの言いたいことなんて解ってるから。シカマル以外の男子を名前で呼ぶことなんてなかった今までの私が油女くんの名前をなんで呼んでるのか、でしょ?



「なまえ……お前、シノと付き合っ、」

「てませんから!」



 もう、泣きたい。誰だ油女くんが草食系だなんて言ったのは。満足そうに口端を上げるその顔には、獲物を静かに狙う蟷螂を思わせる油女くんの目の奥がきらり、鈍い光を放っていた──





草食系? いいえ彼は肉食系です




 家に帰ってからシカマルん家に説明を兼ねて愚痴りに行った。そしたら「シノも苦労するよな」なんて、私じゃなくて油女くんに同情しやがった! くそう、ケーキもうひとつ追加してやるんだからね!



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