いつからだろう。カカシ先生に対する気持ちが他の人に対するものと違うと気付いたのは。誰といたって、何をしていたって、気付けばカカシ先生のことを考えるようになっていたのは。だけどカカシ先生にとって私は教え子のうちのひとりで、それ以上でもそれ以下でもない。進展なんて望めない、望むほうがおかしかったんだ。



 辿り着いた演習場で体を投げ出すように倒れ込み、どこまでも青い空をただ見つめる。まるで世界にひとりになったような感覚の中でも、脳裏に浮かぶカカシ先生の姿に思わず目を瞑り頭を振る。



「……なんであんなひと、好きになっちゃったんだろ……」



 ぽつりと出た自分自身の言葉にふと思考が止まった。そうだ。いつからかはともかく、どうしてカカシ先生だったんだろう。



「なまえ」

「っ!」



 突然かけられた声は、今いちばん会いたくて、いちばん会いたくないひとのもの。飛び起きて走り出しかけた瞬間に掴まれた手首が、まるでそこだけ熱を持ったように熱く感じた。



「大事な話が……ある」

「……私には、話すことなんて……なにも、」

「なまえ」

「っ、」

「いいから。座って?」

「……」



 なにも言い返せなくて渋々とそのままカカシ先生の隣に座り込んだ。だけどどうしてもカカシ先生の顔を見たくなくて、ただじっと地面を見つめる。重い沈黙が息苦しくて、たった数十秒がまるで永遠にも思えた。



「……なんでこっち見ないのよ?」

「……早く話してください」

「なまえがこっち見るまでは話さない」

「……」

「なまえ」



 本当にいじわるだ。玉砕するのが解ってて、それでも好意を抱くひとの顔を見られる女がいるとでも思っているのだろうか。それでも、このままの状態でカカシ先生と一緒にいるなんて堪えられなかった。ゆっくりと顔を上げてかちりと視線が交わった瞬間、ふいに顔にかかった影と唇に感じる温度。状況が飲み込めなくて、ただ茫然とそれを受け入れることしかできない。離れていく温度を知らず目で追えば、まっすぐ私を見つめる瞳と視線がぶつかる。その真摯な眼差しは私の知るいつものカカシ先生のものではなかった。



「せ、んせ……」

「ごめんね……? なまえがオレを見ないから、ちょっと意地になってた」

「……え?」

「いくらオレでもさすがにヘコむからね。好きな娘に目も合わせてもらえないなんてさ」

「!」

「だからちょっと意地悪しちゃった……って、なまえ?」

「う、ううー……」



 カカシ先生の言葉に私の涙腺はとうとう決壊してしまい、嬉しいのか悔しいのか自分自身よく解らないまま先生の胸へと飛び込んでいた。そんな私を受け止めたカカシ先生は腕の力を一瞬強くこめて、またあの柔らかくて熱い感覚を私の唇へと落としてくれたのだった。


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