カカシ先生はいじわるだ。あの飄々とした風貌にみんな騙されてる。そう思うのは別に私の想いに気付いているくせに気付かないフリをする先生に対する嫌味なんかじゃない。そう、もう先生のことなんか好きじゃ、ないんだから── 「なまえ」 「なんですか」 「あらら……不機嫌だねえ」 「いえ別に。任務の話ですか」 「んー……まあ、」 いつもとまったく変わらないカカシ先生の表情にイライラする。こういうところがモテるくせに独り身である所以だと思う。人の心の機微ってものを読む配慮がまるでない。まあ、読めたら読めたでそんなカカシ先生は気持ち悪いのだけれど。 「ねえ」 「はい」 「なーんかさあ……急によそよそしくなったよね、お前」 「気のせいです」 「もしかして、オレのせい……とか?」 「……違います」 やめて欲しい。諦めたとはいえ、まだカカシ先生の前で平常心を保てるほど私は人間ができている訳じゃない。ましてや自分のせいだと朧気にも自覚しているのならなおのこと放っておいて欲しい。 「……私、明日の任務の準備がありますからこれで」 「待ってよ」 「っ!」 手首にカカシ先生の体温を感じた瞬間、思わず振り払って距離を取っていた。そうやって自分勝手に距離を詰める先生にいつもの自分なんて、もう保てなかった。握る拳が、痛い。 「解って……いるくせに! 都合のいい時だけ先生面しないで下さい!」 「なまえ……?」 「そうやって自分は何も知りませんって顔するのは勝手ですけど、それに傷付く人だっているんです! 私の言ってる意味、カカシ先生には解りますよね?」 「っ、」 「今、私は私の気持ちと戦ってるんです! 邪魔しないで下さい!」 「それ、って……」 「……っ、」 「なまえ!」 背後から私の名を呼ぶカカシ先生の声が聞こえたけれど足は止まらなかった。ただ悔しくて、情けなくて、滲む視界の中ひたすら足を動かしていた── . |