「なまえちゃん、シカマルと付き合っててどう?」

「……え」



 唐突ないのの言葉になまえは目をしばたく。期待が込められたいのの視線が痛い。それ以前に恥ずかしさに頬が熱くなる。



「だってさ、シカマルってば小さい頃からめんどくさがりだし、女心なんて絶対理解できないと思うのよねー」

「ほっとけ」

「心配してやってんでしょ」

「お前のはただの好奇心だろが」

「そんなことないわよ。ねーなまえちゃん」

「……」

「なまえちゃん?」

「なまえ?」

「え……あ、ああ、ごめんなさい……」



 そういって曖昧に微笑んだなまえはそのまま俯いた。自分ではどうしようもない、もやもやとした感情が胸を渦巻く。目の前で幼なじみ特有の気安さで話すふたりの間に自分が入り込めない空気を感じてしまった。それがまるで自分を拒否しているかのようで寂しい。どうやっても埋められない十三年もの空白。否が応にもそれを突き付けられているようだった。



「ちょっと、お手洗い、行ってくる、ね」



 堪えきれずにとうとうなまえは席を立った。これ以上ふたりの傍にいたくない。楽しいはずのシカマルとの時間でまさか自分の醜い感情を改めて思い知らされるとは夢にも思っていなかった。



「(私……いのちゃんに、嫉妬……してるんだ……)」



 自覚した途端、心がひどく締めつけられて思わず唇を噛みしめる。大事にされている──そう理解していても、シカマルのいのに向ける眼差しに不安が募る。思わず自分を抱きしめた瞬間、軽い音を立てて開かれた扉。その先には心配そうにこちらを見つめるヒナタが立っていた。



「ヒナタ、ちゃん」

「なまえちゃん……具合、悪いの?」

「う、ううん、違う、の……ちが、」

「でも……泣きそうな顔、してる、よ……?」

「っ、」

「シカマルくんの、こと……?」

「……っ、」



 ヒナタの問いに知らず目頭が熱くなる。他人から見ても解るほど自分はひどく取り乱しているのだろうか。何も言えずに俯いたまま雫を堪えるなまえの肩に、そっと優しく添えられたのはヒナタの白い指先だった。



「そう、なんだね……?」

「ち……違う、の。私が……私が勝手に、ふ、不安になって……勝手に、だから……」

「……いのちゃんの、こと?」

「う、ん……ふ、ふたり、は……幼なじみ、で……お互いのこと、誰より、知ってて……」

「……うん」

「だ、誰も……悪く、ないのに……解ってるのに……胸が、苦しい、の」

「……うん」



 宥めるように肩を上下するヒナタの手に促されるように、口から感情が零れていく。堪えていた雫はとうとう溢れ出し、とめどなく頬を濡らしていく。



「解るよ……私だって、好きなひとが他の女の子と話してたら……嫌、だよ」

「ヒナタ、ちゃん……」

「当たり前だよ……だって、好き、なんだもの……」

「……」

「だから、泣かないで……自信、もって」

「……う、うん。ありが、とう……ありがとうヒナタちゃん……」



 溢れ出る雫はいよいよ止まらない。縋るように腕の中で震えるなまえにヒナタはそれ以上何も言わなかった。なまえの心がただ落ち着くようにと、ずっと肩を撫で続けていた。



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